17万分の二人をして来る

Jly, 2012

人波にもまれながら原宿の駅を出た。幟,プラカード,トラメのアジの声,警官の列。

…懐かしかった。

学生時代,何度この道を反核集会に向かっただろう。真夏の太陽が降り注ぐ。原水禁の署名を呼びかけるのはいつもこんな暑い日だった。ボクたちが声をあげれば,いつかアメリカもソ連も核兵器を放棄し,世界から原発はなくなると本当に信じていた。

「ねえ,ねえ,ビラもらっちゃった。」
「ん?何だ,そりゃ,核マルのビラじゃないか!ばか!!返して来い(笑)!」
「しゅん」

デモに参加したことがない妻を連れて久しぶりでここに来た。17万人の中のふたりにカウントされるために。福島第一原発は「想定内」の津波であっさりと爆発事故を起こした。金町の浄水場でセシウムが検出された日は本当に本当に怖かった。

若い一般参加者たちがとても多い。動員されたわけでもない無所属の女学生,カップル,スマートフォンを手にした若者たち…。もちろん,スタッフや主催者たちでさえほとんどボクよりはずっと若い人たちだ。

デモや集会では,世の中が変わらないことをいやと言うほど思い知らされたボクたちの世代。でも,今日,再びシュプレヒコールしながら若者たちの後ろについて歩く。

♪シュプレヒコールの波 通り過ぎてゆく
時の流れを止めて 変わらない夢を
見たがる者たちと 戦うため
(中島みゆき 「世情」)

デモの列が信号待ちで止まったとき妻が貧血を起こしてしゃがみこんだ。

「がんばれ,もう少しでゴールだ。」
「ん,お水ちょうだい。」

行列が動き出した。

「シュプレヒコール!!」

若い女の声がトラメから青空に響く。

「おー!!」

妻とボクは手をつないでまた歩き出した。

時の流れを止める者たちの夢は変わっていないが,核のない未来を志向するボクたちの夢も変わってはいない。

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