Aug.2015

3. 現代世界情勢についての一考察


EOS 5D MarkⅡ+ EF70-200mm f/2.8L USM

へリング!


花火の帰り道からビールを飲(や)る作戦が功を奏し,エアコンの効いた部屋に戻った二人はそれこそ泥のように眠った。72+7時間ぶりのまともな睡眠だった。

前夜,マインフェストの花火大会の情報を知らなかったイビスホテルは,この日,昼過ぎまでボクたちのトランクを快く預かってくれることで観光ホテルとしての面目を躍如した。


ホテルのレストランからは,いい香りがしていたが,チェックインのとき朝食を予約しなかった。そして空腹を抱えて中央駅に向かったのにはわけがあった。


前日,空港から駅に着いたときに,へリングと呼ばれるニシンの酢漬けの専門店があるのを見つけていたのだ。

へリングは北ドイツの料理なので,フランクフルトやミュンヘンではなかなか食べられない。ちょうど,東京駅で大阪串揚げや讃岐うどん専門店を見つけた感じである。


しかもこの店が大当たり。ニシンは全く生臭さがないし,パンはさくーっっ!!…っっと,これぞドイツパン。

確か19番線のあたりだったと記憶している。近くフランクフルトへご旅行予定がおありの方はぜひお試しあれ。

EOS 5D MarkⅡ+ EF70-200mm f/2.8L USM


朝食を終え,黄色やピンクの付箋でハリネズミのようになっている妻のガイドブックに従って,駅前からカイザー通りを東へ歩く。


行く手にはそのハリネズミ付箋の場所がひしめく旧市街がある。

新チャイナタウン

ここで暫し,美濃か信濃あたりにある小国をご想像いただきたい。時は元亀天正の頃,領主は守護大名の血筋だが,甲斐武田軍の侵略を受けて大敗した。占領軍にひれ伏すように服従を誓い,何とか領国を安堵されたが,領内にはなお武田軍が駐留している。そこに尾張で下剋上した織田信長の脅威が迫って来た。危機に臨んで,小国が進んで武田軍への忠誠を宣言する馬鹿があろうか。武田にはいい顔をしながら,上杉にも根回しの密使を送った上で,仲介者を通して,織田軍で頭角を現す羽柴秀吉あたりに誼を結ぶ。それが小国の生き残る道であろう。京や堺に間者を送り,市井の声に耳を傾ければ,武田を恃んで織田軍を敵に回すなど狂気の沙汰だと知るはずだ(この稿,昨年の9月執筆につき,今年の大河ドラマからの受け売りではありません。念のため(笑))。

もちろん,永田町で国政を世襲しているお坊ちゃまたちのたとえ話である。彼らはきっと旅行するとき,黒塗りの車で空港まで行き,特別室から一番先にファーストクラスに搭乗する。現地に着けば,高級ホテルの最上階に泊まって,窓から街を眺め,カジノやゴルフをして帰国する。だから本当の国際情勢には全く疎い。外交を世間知らずのぼんぼんに任せておいて日本は大丈夫なのだろうか。

今,時代は中国である。羽田空港の出発カウンターはチャイナエアだけが人であふれ沸騰している。手荷物検査を受けて搭乗ゲートに進むと,旅行者の6割以上は中国人団体客である。そしてその大半は列に並ぶという習慣を持たない。回りに気を遣うという経験も意思もない。女性のファッションはかなりポップで,男性は腹の底から大声でしゃべり且つ笑いながら闊歩する。羽田に限ったことではない。

世界中の有名観光地は彼らに占拠されている。ベルサイユ宮殿も京都御所も彼らなしにはもう立ち行かない。

果たしてボクたちの行く手,ゲーテハウスや旧市庁舎のあるフランクフルトの旧市街にも中国人団体客があふれていた。さながら新たなチャイナタウンである。道を歩いているのもチャイニーズ,テラスのテーブル席で軽食を楽しんでいるのもチャイニーズ,アイスクリーム屋の列もみなチャイニーズ。まるでデモのアジテーションかと思うほどの大音声(だいおんじょう)で建物の歴史を説明するガイドを取り囲んでいるのも,道に並んだ大型バスに乗り込むのも,降りてくるのもチャイニーズ。

ボクの知る限り,日本でも銀座と小樽はすでに同じ状態にある。

EOS 5D MarkⅡ+ EF17-40mm f/4L USM


彼らは例外なく最新電子モバイルの使い手である。アイパッドを掲げて写真を撮り,即ツイッターやフェイスブックにアップロードする。通行人を押しのけ,自撮り棒の先にあるアイフォンに微笑む。中にはライブ中継するモバイルに向かって,大声でナレーションしながら歩いている人もいる。


そして大聖堂の礼拝堂は彼らの無料休憩所と化していた。


だんだん,自分は本当にヨーロッパの街にいるのだろうかと,疑いたくなってくるほどである。

そのエネルギーと勢いたるや元亀天正の尾張の比ではない。

 


ボクは護憲派なので,安保法案はそもそも論外なのであるが,百歩譲って仮に現在の国際状況には,ある程度の軍事行為が必要だとしても,落ち目の武田軍にへつらってその威を恃み,尾張と真っ向から対立するなんて,もはや正気の策とはとうてい思えない。

客観的に考えて,安全な場所から同盟軍への後方支援だけをする卑怯者を,敵はもちろん,味方ですら信頼するものだろうか。


織田の天下も永久には続かない。市井では中国の次はインドだと専らの噂である。かつてインドは戦勝国で唯一,日本に同情的だった歴史がある。

チャ~ンス(笑)

永田町の2世のぼんぼんたちには,ぜひエコノミークラスで旅行し,街を歩いてみることをお勧めする。

EOS 5D MarkⅡ+ EF70-200mm f/2.8L USM


さて,ところでボクたちの旅行はインドの台頭を待ってはいられない。

EOS 5D MarkⅡ+ EF17-40mm f/4L USM


ガイドブックの最初に載っているような有名観光地はもはや中国人観光客に占拠されているとみてよい。よほど気を付けて行き先を選ばないと,チャイナタウン巡りの旅になってしまう。

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