03/ビーナス

Nov, 2012

北方民族資料館は無料開放の上にイベントが開催されていた。フィールドゲーム形式で館内の展示物に関する10のクイズに全問正解すると賞品がもらえる。賞品は色鉛筆。さっそくドレミがクイズシートを手に勇躍入館して行く。


クイズに参加しているのはほとんど小学生だが,受付のお姉さんは「大人の方も歓迎です。」と笑顔でシートをくれた。仲良くなった女の子と手分けして答えをさがす作戦を立てている。 ドレミはこういうところに入ると,説明のプレートはもちろん,ビデオや解説ディスプレイなど,ほとんど読み尽くすので,たとえ無料じゃなくてもコストパフォーマンスはとても高いのである。


ボクはと言えば,まあ,何しろ「布石」なので,このあとの撮影行を楽しみに,ふんふんと適当に展示物を見学していたところが,タイヘンなものを発見してしまった。

オホーツク文化の象徴,モヨロのビーナスである。

7世紀前後にシベリアから渡ってきてオホーツク海沿岸に住み着いた民族があった。彼らはオホーツク文化人と呼ばれ,高い文化を誇っていた。ボクは古代史マニアでもあるので,オホーツク文化人についてはずいぶんと調べ,周辺の遺跡はほとんど訪ねていた。中でもいちばん興味があったのは,彼らの音楽や美術の水準の高さである。音楽については,きっとオホーツク文化人も,馬頭琴の原型を応用して海獣の骨で作った多弦琴を使っていたと考えている。文字を持つ必要のなかった民族は,正確な伝承のために優れた音楽を持っていたはずだ。だがその音楽は再現することができない。オホーツク文化人の芸術水準を証明する唯一の遺物がモヨロ遺跡から出土したこの女性像なのである。オホーツク文化の特徴で海獣の骨を削って作られている。この優美な曲線にボクは魅せられている。

5年前の夏,ボクとドレミは炎天下の遺跡を訪ね歩き,とうとう市内の市立博物館に所蔵されていることをつきとめて彼女に会うことができた。もし,ここの2体も本物だとしたら,ビーナスは合計3体出土していることになる。あるいは他にもあるかもしれない。古代ロマンが広がってゆく。

これはまたまた網走に来る用ができてしまった。

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