+/休日銀座50L

Nov, 2012

ドレミのショッピングを待つ間,いつものように街の写真を撮っていたら携帯にメールが着信した.

稀有なことである.ボクは「携帯をキチンと携帯する」という大人として最低限の習慣が身についていないため,誰からも信用されていないからだ.ボクに連絡を取るなら,ドレミにメールした方が確実でしかも速い.母ですら大事な用件はドレミに送信してくる.かくして専らワープロと化したボクの携帯が,携帯電話として全き機能を果たすのは,たまさか今日のように,夫婦が別行動するとき,互いの連絡用としてのみである.

だから,さては珍しく約束時間前に買い物の終わったドレミからだろうかと思いながらメールを開くと,差出人は北海道の親友である.果たして見舞ったばかりの北海道犬ミックス美幌小町の訃報だった.

「ドレミさんに知らせると,きっと泣いてしまうだろうから…」

妻にはタイミングをはかってボクから知らせて欲しいとのことだった.道理で珍しくボクの携帯にメールがあったわけである.

美幌小町は,先週,すでに用足しの間も立っていることができなくなったのに,なお数日間を生きて土曜の早朝に亡くなったそうだ.

「まるで仕事の忙しい二人の休日を待っていたように思えてなりません.」

とある.子どものいない夫婦が犬に寄せる思いの強さは,一般には少々わかりにくいところがある.凍てつく朝,ひっそりと旅立った小町,冷たくなっている愛犬を見つけたときの親友の悲嘆を思った.

気づくと一度はガマンしたはずの涙が,なぜかしら鼻からぼたぼたと銀座の舗道に落ちていた.慌てて啜り上げようとしたら嗚咽が止まらなくなってしまった.行き交う人が不審そうに見るので,とりあえず写真を撮っているフリをしようとカメラを構えたが,ファインダーの中は一面向かいのビルだった.

ウインドウにクチをへの字にして鼻水を啜っている自分が映っていた.

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