今回の旅で決めていることがひとつある。他車に迷惑をかけない限り,原則できるだけゆっくりと走ることだ。目的地に向けて急ぐこともせず,寄り道を重視した。時間がなくなれば,目的地の方をあきらめる作戦だ。
北浜駅を出たあと,ほどなくして今度は「涛沸湖」の看板が目に入ってハンドルを切った。白鳥の飛来地らしく,冬にはカメラマンであふれるのだろうが,今は広い駐車場も空っぽ。タローが駆け回っても,誰もいないのである。
「気に入った。」
たいした風景ではないが,木陰に陣取って蚊取り線香を設置した。海風が潮の香りを運び,遠く眩しそうに斜里岳が霞む。
夢中で描いている間,ドレミは何をしているのだろう。タローと散歩したり,遊んだり,お菓子を食べたり,本を読んだり…。
公園の水を拝借して,タローシャワー用の水もポリタンクに補給した。
国道に戻ると,湖の対岸が原生花園であることに気づいた。丘の上を釧網本線が通る。
北浜駅と小清水駅の間に,夏の間だけ原生花園駅が臨時営業する。広い駐車場には観光バスや自動車が道までぎっちりと並び,人もあふれていた。展望台や土産物屋のある道の駅にもなっているからだ。誰もいなかった涛沸湖の対岸とさして景色や花は変わらない。そもそも すぐそこに見える場所なのである。