48/釧路の居酒屋

Aug, 2009

釧路市に東側から入ろうとすると,別保という台地が海岸まで立ちはだかる。だから国道が寂しい峠を下って,釧路川を渡ると,いきなり大きな市街地に出るのだ。

ボクたちは携帯電話の検索にヒットした最初の銭湯で汗を流してから,釧路駅前の居酒屋「すゞ喜」を目指した。

「shu,おなかすいた。ポッキー食べてもいい?」
「ダメ」
「えーん」


午後9時近い。何しろ根室からの途中,厚岸の道の駅で,名産の夏牡蠣定食すらガマンして来たのである。

←今度来たときには必ず牡蠣を食べると約束してくれないと動かない。…と,道の駅でだだをごねるドレミ。

その理由はこの冬に遡る。入試直前の忙しいスケジュールを縫って,ボクは母と雪の釧路に丹頂を撮りに来た。夕飯を食べに行った居酒屋のカウンターで,偶然,宿泊しているホテルの支配人と隣り合わせて意気投合した。酔った勢いで,おかみさんも巻き込み,夏に再会しましょうということになったのだ。

酔った勢いと書いたが,実は多分に母のキャラクターに拠るところが大きい。母はお酒も飲まないのにやたらと盛り上がる。支配人と居酒屋の女将に写真を送ったりして手紙をやり取りしたのも母だ。写真を送ると言えば,ボクもこの旅行中,もう4人もの人と約束してしまった。遺伝らしい。

旅行前に,もうお忘れになっているかとも思いながら支配人にハガキを書くと「楽しみにしています。」と返事があった。ただ,お盆休みのホテルは忙しく,仕事が終わってすゞ喜に来られるのが10時半になるのが心苦しいと書いてあった。なんのボクらは気まぐれ風まかせの旅,すゞ喜さんさえご迷惑でなければ10時半が12時でも望むところです。

車を駅前のパーキングに入れて,タローは留守番。幸い肌寒いほどの気温である。支配人がペット可のホテルを紹介してくれたのだが,予約の電話をしてみると大型犬はムリだと断られた。だから今夜も宿無し,ドレミは運転のために禁酒である。

すゞ喜の雰囲気は冬と少しも変わらなかった。空腹のドレミがやたらに注文しまくって,支配人が暖簾を分けて来たときにはもう二人とも満腹してしまっていた。

半年ぶりの会話はまた大いに盛り上がったが,話題はほとんど冬と同じ内容の繰り返しだった。ボクも支配人も酔っ払いだから仕方ない。酒席とはこういうものなのだろう。内容はないのに底抜けに楽しい。

「またいつか,ここで。」

ボクたちはお土産に持って来たフロムオーブンのクッキー詰め合わせを女将と支配人に一つずつ手渡した。すゞ喜のお会計はどう考えても半額だったし,支配人からは後で甘い十勝のトウモロコシが送られてきた。これでまたいつか釧路に行く用ができた。

みなさまも釧路で夜にお食事などの機会があれば,和商市場の斜向かいの「すゞ喜」へ是非どうぞ。壁にボクが撮った丹頂の写真がいっぱい飾ってあります。

 

それに,これは内緒にしとこうと思ったのですが,実は女将のオリジナル料理は料亭の花板顔負けのウデ前です。自称天才クッカーのボクが言うんだから間違いありません。

 

←とくに美味しいお通し三点盛


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