タローは筋肉痛らしくて,立ったり,車から降りたりするのも不自由していておかしい.
…下りて来ない.
「かわいいー♪ねえ,撮らないの?」
国道と平行する線路を一両だけの日南線が走っている.窓を開けて妻がスマホで撮ろうとしていた.国道には時々信号があるが,気動車も各駅停車なので,ゆっくり走っていると,ちょうど平均速度が同じらしい.
「あ,また,一緒になった!」
そうこうするうちに,何となく親近感が湧いて来るのも不思議なものだ.
よし,ひとつ,ばちっと撮ったるか!
そう思って,アドバンテージを狙い始めるとこれが意外に難しい.鉄橋や花畑などいい景色の開けたポイントに先回りしても,車を停める適当な場所がなかなか見つからない.
あーあ,来ちゃった.
カメラを持って駆け出す頃にはのんびりゴトゴトと気動車のヤツが通り過ぎてゆく.…うーむ,こりゃ作戦変えなくちゃ.中央線が白線になったところで,軽トラを二台ほどパスさせてもらう.SLでも何でもないただの電車の追っかけである.十分に引き離したところで,小さな集落の入り口に駅の看板が見えた.無人駅のホームに入線する姿,また良し.駅なら確実に車が停められる.ボクは勝利を確信してハンドルを切った.駅舎が見通せる道の横断歩道を保育園の子たちが手を上げて横断中だった.若い保母さんがすまなそうに何度も何度もこちらに向かってお辞儀する.
どうぞどうぞ.あ,転ばないようにゆっくり渡ってね.笑顔.
大方の読者が予想される通り,子どもたちが渡り終わった向こうにヤツがまたことさらのんびりした風情でホームに停車するのが見えた.車を駅前に停めて駆け出すうちに,ゴットンと音を立てて出発する.そしてホームに飛び込んで構えたファインダーの中を「ばいばい」と手をふるように小さくなっていった.
負けたよ,じゃあな.
苦笑いしながら駅舎を出ると,朽ちかけた木の観光案内に「夏穂渓谷8K」と書いてあるのが読めた.
土曜だというのに誰いない.ボクたちの貸切状態.
タローは渓谷で泳ぐが,体力がついていかないので流されそうになったりしている.
でも,元気なのでホッとした.
渓谷から戻る道は現代とはどこか別世界のように静かな田園風景の中だった。小さな村の交差点に「スーパーケンちゃん」という小さな店があって、とても気になる佇まいだった。200メートル行き過ぎたところで引き返す決断をした.
ドレミが店内に吸い込まれていき,すぐにおかみさんと親しげに話し出した.駐車場に停めてある配達用軽バンの横っ腹に「スパケン」と大書してある.春の日がゆらゆら落ちる交差点の右折帯に耕運機が入ってきたが,長い信号が変わるまでに10数メートルが進めず信号待ちしている.それらの風景の何もかもが心地よかった.「スパケン」の店先に小ぶりの日向夏がビニールの小袋につめられて積んであった.一袋200円で「甘いよー!本日のお買い得」と札にある.
「お買い得の甘い日向夏15袋ください.それとこっちの不知火を5袋」
懐かしい.
おび天
ボクが写真を撮ってる間に最後の荷物整理と掃除.
はいはい,タロー待っててね.
買っている.
スタンドで給油中,タローの顔にダニ一匹発見.全身検査中.スタンドの人が遠巻きに見ている.
銭湯
湯上りに高千穂峰を臨む御池まで急ぎ,夕日を待ったが,残念ながら雲だらけだった.霧島が
「また来いよ」
と,言ってるのかな.
熊本県に入ったけれど,レストランのメニューにチキン南蛮と冷や汁があったのでつい頼んでしまった.お腹いっぱい.どうも今回は隣県の名物を熊本で食べるというこのパターンが多い.
さらば九州.毎日が刺激的過ぎて,この橋を九州に入った日のことがもう定かでない.漂泊の想いは満たされた.もう少し放浪していたいなと思う腹八分目くらいがちょうどよい.そろそろ仕事が恋しくもある.
昨日,タローとドレミの筋肉痛を笑っていた.
「オレはやっぱりジムで鍛えてるからね.」
ところが今朝からどうしたことだろう,こちらの足腰が立たない.
浜名湖付近1時間を超えたところで淡々と交代しながら一晩中走り続けるいつもの作戦
日本坂親友オススメのカツオ丼@パーキング
霧島御池を出てから18時間.全員,元気です! …冒頭のCDタイトルにつながったところで,今年の春旅おわり.