11/エピローグ

Feb, 2009

 

ホテルに戻って暫くは,ストレージに移しておいた分の写真を二人で見て一喜一憂していたが,やがて2日間の疲れと,快適なベッドのおかげで気絶するように眠りに落ちた.


 

快晴の朝が来た.パンとおにぎりの朝食をすませたら,もう真っ直ぐに空港に向かわなければならない.8階の窓から見渡す湿原は,すぐ近くなのに朝日に霞んで,もう遠い国のようだった.


 

空港に着いて手続きを済ませて搭乗口に入った.そのガラス張りの空間が旅の終わりを告げた.ソファに座ったときに母がぽつりと,ほんとにぽつりと言った.


「ああ,夢がかなった.もう,こんな楽しいことは二度とないね.」

ボクは否定しようとしたが言葉が出なかった.父の病状や仕事のことを考えると,ボクと母がこうして二人で出掛けるのは容易ではない.

母とは羽田空港の到着ロビーで別れた.ボクはトランクとカメラバッグを担ぎ,長靴で職場に向かった.母はリムジンバスで自宅に急いだ.家に帰れば,ぎりぎりまで出勤を遅らせている妻に代わって父の介護が待っている.

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夜,仕事を終えて帰宅すると,母はあちこちに電話して旅の報告をしたり,山のようなお土産チョコレートを整理したりして,やたらにハイテンションだった.

「ツル,かわいかったねえ.また行きたいねぇ.来年はドレミちゃんと行こうかなー♪」

…オフクロ,釧路空港では,もう二度と行けないって言ってたぞ.

楽しく過ごした釧路の居酒屋には,母がボクの撮った鶴の写真を送った.すぐに女将から丁寧な礼状が来た.店の人たちも支配人も釧路の人なのに「こんなツルの姿は見たことがない.」と感心して見たそうだ.灯台下暗しというべきか紺屋の白袴か.写真はお店に飾ってくれているそうだ.


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