2011/11/27

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「スマル亭はジャガ橋がいちばんうまい。」

10年前,清水町に住んでいた親友がそう言ったから,ボクたちは今でも蛇ケ橋店にこだわっている。


伊豆に行くなら有料道路を急がずに昔ながらの国道をゆくのもいいものだ。斜陽した温泉街の佇まいやよし。うどんを食べたら今度は甘いもの…。そこで長岡の黒柳に寄っては,二つ三つずつほど出来立てを購う。大仁あたりで狩野川の土手に座り,城山を見上げながらほかほか湯気の立つやつをほおばればまた格別である。

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30数年来,年に何度もこの道を通っていながら,一度も寄ったことがなかった韮山反射炉に行こうと国道を外れた。気まぐれではない。反射炉が世界遺産に予備登録されるという噂がネット上に飛んでいたからである。もしもそんなことになったら,もう二度と行くチャンスはない。何しろ世界遺産と言ったらユネスコによるテーマパーク事業である。恐るべしや,歴史も風情も風土も消し飛んでしまう。


さて,初めて行ってみれば何のことはない。ワビサビの効いたまことボク好みの佇まいではあったが世界遺産になるとは到底思えない。

しかし油断大敵である。石見銀山だとか小笠原だって狙われるくらいだから,世界基準では何が起こるかわからない。「しろばんば」や「伊豆の踊り子」の情緒をお求めの向きは,念のため今のうちに訪ねておかれたい。


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かく言うボクは何度西伊豆を訪ねたか数えきれない。100回はまだ突破していないと思うがそのくらいである。

ドレミを初めてドライブに誘ったときもこの峠を越えてあの海まで走った。



戸田の砂嘴にはそのとき彼女が隠れた松林が今でも変わらない。後ろから「わっ」とおどかしてきてコロコロと笑った妻はまだ10代の少女だった。


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戸田からさらに南にひとつ峠を越えると土肥に出る。


かつて土肥町役場の観光課が町外れの岬に大きな鐘を設置して恋人岬と名付けた。二人で鐘を鳴らして認定証をもらったカップルはやがて結ばれるという分かりやすさが受けて,今では認定受付の他にお土産屋さんや喫茶店が建ち並び,観光バスが止まるほどのプチ名所になっている。

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結婚前のボクたちが訪ねたときは,まだ鐘と木の看板しかなかった。鐘の脇にあった手書きの案内に従って土肥の町に戻り,役場の2階で認定の申し込みをした。受付番号がまだ二ケタも若い方だったから,きっと極めて初期の頃だったのだろう。

しばらくすると自宅に認定書が送られて来た。役場宛に結婚したことを報告すると,5年後だったか忘れた頃に手書きのお祝いハガキが届いた。

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夕日の美しい西伊豆の海岸にはいい思い出ばかりが残っている。

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