タロー行進曲11才2017/12/24

タローが死んだ日の朝まで毎日続けた仕事…それは「シュウ起こして」である。

朝,なおみが起きてコーヒーを淹れる。それからタローを起こして声をかける。

「タロー,シュウ起こして!」

タローはちゃっちゃかちゃっちゃか(フローリングに爪の当たる音)ベッドの脇までやってきて尻尾をぶんぶん振りながら首を寝ているボクの方へ伸ばす。ぐずぐずと起きないボクもとうとうここで体を起こし,タローの耳の後ろや顎や胸をなでる。

「タロー,グーッド」

タローは嬉しくなってスリッパを咥えて小躍りする。子犬のときから習慣になっていた。

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こちらはオシゴトと呼べるかどうかわからないが,やはり数日前まで続けていたのがその名も「オシゴト」

ボクたちが風呂に入るとちゃっちゃかちゃっちゃかやって来て脱衣所にドスンと侍る。小さい頃に一人になるのが寂しくて来て以来の習慣である。ボクたちが頭や体を洗う間ずっとすねたように寝そべっていた。そして湯に浸かって戸を開けると頭を浴室につっこんできて蛇口からうまそうに水を飲むこともあった。湯から上がったところでなおみをスルーし,ボクの足をペロペロとなめるのが「オシゴト」である。これも子犬のときに奨励したため習慣になったのだろう。

「オヨフク」は晩年,いちばん最後に覚えたオシゴトである。

車の乗り降りが危なっかしくなってからお出かけのときは胴輪をつけることになった。なぜかテーマ曲になったTBSのスポーツマーチを歌いながら床に胴輪を広げると,嬉しそうにやってきて片方ずつ前足を入れる。母が「たんたんたかたか」と名付けた。こちらはちゃんと着終わったところでもらえるチーズが目当てである。その様子を見ていたマロンが歌っている間,ボクとタローの周りをくるくる回りながら鼻でつんつんする芸を始め,ちゃっかりチーズの分け前に預かるようになった。こういうクリエイティブな思考力については柴犬のマロンの方がずいぶんと上手である。

「タロー,来ないね。」

湯舟でなおみがつぶやく。耳をすませてもタローはもう二度とやってこない。でもときどき脱衣所で気配のすることがある。

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