SL函館大沼号
函館本線函館駅~森駅間を走っていたSL。
運行:北海道旅客鉄道 撮影:渡島沼尻駅
公式HP:JR北海道
撮影地: 北海道茅部郡森町砂原東
撮影日:2017年4月
北海道に渡ったときから狙っていたのです。
渡島半島の小さな岬で夕日を待った日…。
鹿部の駅に行って時刻表を確かめました。
そして運行ルートも。ほらね,SL函館大沼号。
いよいよ帰り道,午前中の運行にも十分間に合う時間だったのですが,濁川温泉の秘湯なんかに浸かって余裕を見せています。と,言うのも狙った鹿部あたりを走るのは午後,SLが函館に帰るときだからです。
さらに昼寝もしたあとロケハンし,ローカル感の素敵な渡島沼尻駅で待ち伏せることにしました。
「あと8分で汽車が参りまーす。白線の内側までお下がりくださーい。」
ドレミが携帯の時計を見ながら言います。
いよいよ時間が近付いてくると,何度も確かめたカメラの設定がまた気になります。これぞSLの緊張感。
タローは危ないので撤収して車で留守番。
それにしても,8分前になってカメラマンが一人も来ない…これはどういうわけでしょう。なんか「ちゃんちゃん♪」的なオチが待ってる予感がします(笑)
彼方に煙,それから胸のすくような汽笛。
ひょっ!ひょっ!ひょーっ!
来た!望遠いっぱいで煙の中から現れるところを連写したら,一気に70mmまで引いて,日の丸にならぬよう信号の鉄柱にピンを置いて待つ。何度もシミュレーションした動作です。
ありゃ!?機関車の顔が何だかノッペリしています。わちゃー,後ろ向きじゃん。
詳しくない方のために解説いたしますと,汽車が終点につくと機関車を最後尾に繋ぎかえるわけですが,その際,機関車を反転させる円形の転車台がない駅では,平行する線路を使って,向きはそのままに繋ぎかえます。したがって機関車はバックで走りながら列車を引くことになります。走行には問題ありませんが,見た目が大問題です。 写真に撮るなら,函館から森に向かっている姿を撮らなければなりませんでした。
道理でこんな風情よき無人駅にカメラマンが一人もいないわけです。そうと知っていれば温泉に寄ったりせず真っ直ぐに来ていれば午前中の運行に間に合ったのに…。轟音とともに機関車が真横を通過していきます。
だーが,しかし!こんなこともあろうかと,ボクたちは構図をもう1アングル準備していました。
「炎天下,無人駅のホームに立って通過する列車を見送る日傘の女」
…こちらもモデルの立ち位置など打ち合わせ済みでスタンバイしているはずです。
ふふふ。
余裕の笑みを浮かべながら,反転したボクは,ファインダーの中の光景を見てのけ反りました。
のどかだった駅はもうもうとあがる真っ黒な煤煙に包まれ,逃げ惑うドレミの姿も定かではありません。一帯の森から轟音に驚いたカラスが不気味な声を上げて一斉に飛び立ち,灰に覆われた空のまがまがしさを助長していました。
やがてしだいに晴れてゆく煙の中に,胸を押さえてころころ笑い転げているドレミが見えてきました。