OUR DAYS2007年月明かり

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31日の夜、職場から直接八ヶ岳に向かいました。両親には悪いけど、仕事がいちばんハードなときなので、ここをじっくり休まなくっちゃね。人混みの初詣や新年会も、もし風邪をもらって受験生たちにウツしてしまうとタイヘンなので避けなければなりません。もうずっとふたりで過ごすお正月に慣れているのです。


しらべ荘につくと凍結防止のために切ってあった水道管を開き、薪ストーブを焚きます。手分けして掃除をしたり、年越し蕎麦を茹でたりするうちに家も暖まってきました。

雪をはじめて見るタローは、最初、自分の鼻息で舞うパウダースノーを不思議そうに追い掛け回していましたが、やがて火がついたようにはしゃぎだしてまるでうさぎのようにぴょんぴょん飛び回ります。ボクたちも月明かりに誘われ近くの農場まで行きました。そして八ヶ岳にカメラを向けシャッターを開放してみました。

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青白く光る雪原に、村の深叢寺からでしょう、除夜の鐘が静かに響き渡ります。時おり、点にしか見えないほど遠くから雪煙をあげてタローが駆けてきては三脚の下を走り抜けて行きます。はるか諏訪湖畔に花火のあがる音が午前0時を知らせてくれました。ボクたちはタローを呼び寄せておすわりさせ、

「明けましておめでとうございます。」

と声をそろえました。すると、どうでしょう。タローがそれに合わせて、ぴょっこりとお辞儀をするではありませんか。冴え冴えと光る月が、新年の最初の1分だけ、タローに人間のことばをわかるようにしてくれたのかと思ってしまいました。

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あとで落ち着いて考えると、ふたりそろって頭を下げたので、タローは何かおいしいものでも落ちているのかと思ったのでしょう。


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八ヶ岳の麓で静かに静かにボクたち3人の年が明けました。


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