OUR DAYS2007年2007/3/16

それはとっても短い時間だった。

朝、ボクとタローが遊歩道まで散歩に出ると、さらさらと冷たいものが落ちてきた。みぞれかな。…最初はそう思ったが、やがてぱらぱらぱらぱらと木の梢や低木の葉を軽やかに鳴らした。タローの背中が白くなった。なんだかあたりが静かになって、まるで町もその音に耳を澄ませているようだ。

「ゆぅーきやこんこ、あられやこんこ♪」

保育園に向かうのだろう、お母さんの自転車の前で小さな女の子が歌いながら通り過ぎた。

「なおみを呼んでこよう。」

急いで家に戻る頃にはもうやんでしまった。タローの背中も小さな水滴がたくさんついているばかりだ。

2

東京の観測史上最も遅い初雪だったそうである。そしてきっとなごり雪だろう。

出勤の途中、半蔵門を右折しているとき、助手席のなおみが悲鳴をあげた。

「おわぁー!!ど、どーした!」
「ほら!」

指さす方をバックミラーで確認すると、ピンク色が目に入った。

「1分咲きね♪」

ソメイヨシノだ。彼女は桜が咲くと常軌を逸して驚喜する。なおみの季節が来た。

NEXT