OUR DAYS2007年2007/7/5

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日曜日に大学の恩師の個展に行った。

毎年、銀座のデパートにある画廊で開かれる。先生は父より3つ4つ年上なので80才をだいぶ越えているはずだが、めっぽううまい。もう、とにかくうまいとしか言えないのだ。とくに風景画の前に立つと「ほぇぇぇ」と、ため息をつきながら見入るばかりだ。30回目くらいのため息をついている後ろへ、お客さんへの挨拶を終えたらしい先生が立たれた。


「イマムラくん、どーもよく来てくれたねぇ。」

バーコードだった頭頂はもうつるつるになって、よく立っていると思うほどの足取りだ。こんなよぼよぼでどうして100号もの裸婦を何枚も仕上げるようなパワーが出るのだろう。

ボクは直立不動で挨拶する。横でなおみがくすりと笑う。学生運動したりヨーロッパを放浪したりして、この担当教官には限りなくお世話になった。全く頭の上がらない唯一の相手だ。

「秋になって涼しくなったら、また写生にお誘いします。」

てかてかの額の奥で小さな目がぎらりと光った。

「写生はいつでも行きますよ。」

眼光がするどい。

正確無比なタッチとはうらはらなこのパワーのために、風景や花、野菜などは生き生きと躍動するが、壺や裸婦はギラつくようなリアリティがかえって濃すぎる。だから買い手もあまりついていない。札がついているのは風景画や薔薇の絵ばかりだ(…なんてことは、口が裂けても先生には言えないが…)。もっともそれを承知で、リアルな静物画を楽しんでいらっしゃるのかもしれない。

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画廊を出るとどっと疲れた。これほど緊張することもめったにない。

パーキングの時間にまだ余裕があることを確かめたなおみは先日行ったばかりのローラアシュレイに走っていった。セールが始まっていて、こないだは手が出なかったワンピースをゲットしてきた。


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