OUR DAYS2007年2007/11/15

最初に袋いっぱいの呼気を取る。次に定量の水と錠剤を飲んで横になり、20分後にもう一度、呼気を取って検査すると、春にやったピロリの除菌が成功しているかどうかわかる呼気テストを受けた。

「あら、紙コップきらしちゃった、尿検査のでいいかしら」

看護婦さんにそう言われては「いや」とは言えない。
ボクは錠剤を口に入れて、内側に何CCなどと目盛りが印刷されている紙コップの水で飲み下した。

「お水も全量飲んでね。」

コップを傾けると、底には的のような同心円が描かれていた。検査のために、朝から飲食禁止だったので、ボクが47回目の誕生日の最初に口にしたものは、尿コップ一杯の水になった。

別に誕生日をねらって検査を受けたわけではない。昨日、リズモダンという不整脈の薬を処方してもらうために病院来たら、検査を受けずにほったらかしていたのを、幼なじみの院長に見つかってしまったのだ。

尿コップ呼気テストを終わって、病院の隣にある薬局に行った。きのう、リズモダンの在庫がなかったので、検査の帰りに行く約束になっていたのだ。受付に行くと、薬剤師の持つリズモダンの袋に「注意!10割?」というメモが貼ってある。実は前日、ボクの保険証の期限が10月で切れていることがわかったのだ。忙しい日が続いたので、なおみが書留郵便を受け取り損なったらしい。果たして、区役所に電話すると、9月頃に一度郵送したが局の保管期限が切れて戻っていたそうだ。すぐに再送の手続きを取ったが、きょうは間に合わないので後日持ってくると伝えた。薬剤師はそれを聞くと、そわそわと慌てだし、ガラスの向こうで何人もがこそこそ話した挙げ句、

「ちょっと、○○医院に3割で流してるか確認の電話します。」

と、言ってまた、向こうに行こうとした。

ぶちっ!!

「もう、10割払うから、薬をよこせ!!」
「いえ、そういう意味では…」
「じゃあ、どういう意味だよ。流すって何を流すんだ?そもそも、健康保険を脱退したわけでも、未払いしてるわけでもないんだから、保険を適用する気なら、病院じゃなくて、区役所に照会しろよ。それができないなら、昨日の時点で保険証を更新しないと、10割負担だと言えばいいじゃないか。心臓発作の薬を買いに来た客を目の前にして、信用できないから病院に確認するなんて、正気か!!」
「ちょ、ちょっと、責任者にお伺いしてみます。たぶん、大丈夫だと思いますから。」
「お伺いぃー!!大丈夫!?」

ぶちぶちっ!!

「責任者が何様か知らないが、お伺いして許してもらうつもりはないんだよ。保険の適用は断る!!」

(あーあ。やっちゃった。)

頭の中に、朝読んだ新聞の「切れるおとなたち」という見出しが浮かんだ。ゆうべから何も食べたり飲んだりしていないところに、尿コップで水を飲まされて、いらいらが頂点になっていたかもしれない。一刻も早く帰って、熱いコーヒーが飲みたかった。さすがに対応がまずかったと思ったのか、いつのまにか、言い訳する薬剤師の女の子たちは3人になっていた。

「もう、いい。3割払って薬をもらう。保険証が届き次第、見せにくるってことにしよう。オレはキミらが生まれる前から隣の病院を受診している。この薬局もできたときからの客で、お薬手帳も忘れたことがない。疑われたのが心外だっただけだよ。」

切れてしまった後悔がまとわりついて、帰り道の足取りは重かった。いい大人が「注意」と朱筆されていたメモを見て我を忘れたようだ。

「保険証忘れちゃった。」
「じゃあ、今度のときに持ってきてくださいね。」

という時代は終わったらしい。それにしても、こんな「サイアク」な誕生日もなかなかない。

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