風呂に浸かると、脱衣場で物音がする。
「タロー、来たのかー。」
開けた扉からタローが首を出した。
「タロー、久しぶりじゃない。水飲む?」
なおみが蛇口をひねると、うまそうに水を飲む。小さい頃はいつもこうしたものだ。戸を閉められてひとりぼっちになると、すぐにおしっこをする癖があったので、ボクたちが入浴するときも扉を少し開けておかなければならなかった。浴室には下りて来ないが、一人になるのはイヤなようで、隙間からずっと首を出して待っていた。
一才を過ぎた頃に、相手をしてもらえないときはハウスにいるということを覚えて、以来、風呂にもついて来なくなった。ホッとする一方で少し寂しくもある飼い主の心境は複雑だ。
今でもときどきこうしてやってくると、首を突っ込む様子は子犬のときのままだ。