難問の解説に眠くなってしまった子がひとり、ふたり。初めから、この問題は自分とは関係ない次元だと、別世界に旅立っている子もちらほら。何とか聞いている子たちもそろそろ集中力の限界か。
ボクはホワイトボードに「直線の傾き」と書いてから、
「夕べはかなり揺れたよなあ。」
全く唐突に話題をふる。地震のとき、起きていたらしい数人が素早く反応した。口々に揺れの様子を話し出すと、「何?何?」と、他の子も話題に乗り遅れまいとあせる。
「地震の揺れにはP波とS波があって…」
と、手ぶり身ぶりで説明すると、体験したばかりなので、食いつきもよい。ここは理科的なことはさらりと流しておく。
「被災地に必要のないメールや電話をしちゃダメだぞ。回線や波長がパンクして、本当に大事な緊急連絡や家族同士の電話がつながらなくなるんだ。」
身近な話題で全員の集中が戻ってくるのを見計らう。今だ。突然、ホワイトボードの文字をバーン!そして鋭い勝負声。
「ところで傾きだ!!」
子どもたちは飛び上がって注目する。覚醒率100%、集中力MAX。本日の重要項目を教えるのは、ここから10分間が勝負だ。このテクニックは何度も繰り返してはいけない。45分に一度だけ。あとは先を欲張らすに緩めてやれば定着率も高い。
タローは考える。
逃げてばかりでいいのだろうか。
授業中によくシュウが怒鳴る。(怒鳴ってるんじゃないって)
そのたびにボクは、飛び起きて教室の後ろや誰かの陰に逃げる。恐ろしくて、ときには漏らしてしまうこともある。だから、授業に入るとオチオチ寝てもいられない。(よだれたらして、爆睡してるクセによく言うよ。)
誰が叱られているのだろう。(だから怒ってるんじゃないって)
このまま、逃げてばかりいても何も解決しない。ボクは決意した。シュウが怒鳴ったら、勇気を持って立ち向かおう。なぜって、ボクは男の子だからだ。尻尾をぶんぶん降って、ごめんなさい攻撃、抱きついて、むふむふ攻撃だ。
どわー!!来たー!!こ、こわいぞ。でも、ボクは逃げない!
ぶんぶん!むふむふ!ぶんぶん!むふむふ!
「ほえー!やめれ、タロー。怒ってるんじゃないって!ぷはは。待て!話せばわかる!今、大事なとこなんだ。あー!」