OUR DAYS2008年2008/10/9

TSA(アメリカ運輸保安局)ロックをご存知ですか。恥ずかしながら、ボクたち、今年の春まで知りませんでした。オクラホマから帰国した際、スーツケースの鍵がこじあけられ、テープでぐるぐる巻きになっていたのです。旅好きなボクたちとしては、ぬかったと言うべきでしょう。

9.11以降、アメリカでは全米すべての空港を発着する旅客に対して、爆発物及び危険物の検査のため、航空会社が荷物の鍵を破壊しても賠償の義務はないという制度があるのです。ですからスーツケースに鍵を掛けたければ、TSAがマスターキーで開錠できる指定の鍵を使わなければなりません。それがTSAロックです。

ボクたちがそれに疎かったのにはちょっと事情があります。これまでチェックインする荷物に鍵を掛けたことがなかったからなのです。個人旅行では、行方不明になったり、やたらに開けられたりと荷物のトラブルはしばしばですから、自然にトランクには貴重品は入れない、鍵は掛けないというのが常になってきます。そもそもボクたちの荷物なんて高が知れていて、泥棒にあったとしても、中身よりトランクを壊される方が損害が大きいくらいです。それが先だっては叔母や義母に頼まれた荷物がいっぱいだったので、2つの荷物を3つに分けて、ベルトが足りなくなりました。そこで何の気なしにひとつだけ施錠したのが、件のトランクだったのです。

さて、そのトランク、実は大事にしていたものでした。10年ほど前、地元トップ校に通した生徒の両親からお礼に多額の現金を頂いたので、固辞してお返ししたところ、今度はデパートの商品券で返送されてきました。よほど嬉しかったのだろうと、受けとることにし、その記念にと買ったのが、売り場でいちばん高くておしゃれなそのスーツケースでした。ブルーのケースに茶色い皮の帯がはめ込まれている国産デザイナーズブランドのオリジナル商品でかっこいいのです。

これを機会にTSA対応のトランクを新調しようとしたのですが、今どきはクラシックなデザインのおしゃれなトランクなど流行ではないようで、気に入ったものがありません。そうなると思い出いっぱいのスーツケースがいかにも惜しくなって修理できないものかと思い直しました。買ったデパートはもうつぶれてありませんし、東急ハンズなどに相談しても、その店で買ったものでなければダメのようです。ロゴのデザイナーズブランドも今ではなくなっていたので、内張りの金具に刻印されていたブランド名を頼りに検索し、電話してみると、トランクを製造したM社に辿り着きました。

M社は国産トランクではトップブランドのかばん屋さんで、なんと創業1889年。フェラガモより30年も歴史があります。やっかいな電話の応対にも丁寧で、10年以上前だと部品があるかどうかわからないが、とにかく調べてくれると言います。住所を聞くと、通勤路にしている通りから1本入るだけなので持ち込むことにすると、意外にもこじんまりしたビルで、雰囲気ものんびり家庭的でした。


タローなんかみんなにかまってもらって、車から尻尾ぶんぶんです。トランクは預かってもらいましたが、これで直らなければあきらめもつきます。

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