OUR DAYS2008年2008/10/17

深夜、不甲斐ない日本代表の試合(録画)にイライラしながらつい過ごした発泡酒のために、割れそうに痛む頭をどうしたものかと苦しんでいた朝、職場のビルの大家さんから電話が入った。

「教室のガラスが割れています。警察に連絡しましたが、立ち会っていただけないと中に入れません。」

先に出社するつもりで、すでに身支度を終えていたなおみが、とりあえず急行しようとしたところに第二報が入る。

「警察が調べたところ、鍵が開けられて侵入された形跡があるそうです。急いでください。」

このガラスだけでも被害は大きい。

ボクはバファリンとへパリーゼと大田胃散をいっぺんに飲んでシャワーを浴び、車でなおみの後を追った。職場に着くと、ちょうど鑑識の人が到着して指紋の採取を始めるところだった。


被害は手提げ金庫に入った現金のみ。額は小さくないが、ノートPCや書類が無事だったのでほっとした。現場検証が終わり、飛び散ったガラスも管理会社の人が片付けてくれて、ようやくボクたちも自由に中に入れるようになった。タローは大勢の見知らぬ人がいるので興奮してはしゃぎまわっている。

「タローっていうのか。賢そうだな、警察犬になれるぞ。」

担当の刑事はタローを撫でながら言った。ドラマと同じ二人組みで、人当たりもよく、かなりかっこいい。ほめられたタローはますます調子に乗って、おもちゃ箱からお気に入りのぬいぐるみをくわえてきては刑事たちに見せている。

「タローくんがいれば、被害に遭わなかったのになぁ。」

「あははは。ムリです。この通りですから、番犬にはなりません。それより、タローの指紋は要らないんですか?」

「なるほど。じゃ、タローくんの肉球もぺったんしとこうかな。なーんて、そんなことしたら署で怒られるな。」


ボクとなおみは捜査協力として提出するため、五本指と手のひらの指紋をシートに押捺した。白い粉だらけになった事務机や床からは、すでに犯人のものと思われる指紋や靴跡が採取されているらしい。

刑事たちが地味な車で引き上げたあとは、教室の机で新米のおまわりさんが被害届けの作成に悪戦苦闘するだけとなった。コンビニで買ってきた缶コーヒーをすすめたが、飛び上がって固辞された。1時間くらいかかっていたので、さぞや大作かと思いきや、完成した被害届けはたった5行だった。

奥でおまわりさんが作文中。

割れたドアのガラスも、いの一番に手配していたので、昼には撤去され、夕方には新しいガラスを入れてもらった。だから事件に気づいた人はほとんどいない。心配した風評被害もこれならなさそうだ。


いつものように明るく仕事をこなし、帰宅してからなおみと二人で缶ビールを開けた。

「あーあ、どうせ取られちゃうなら、思いっきり使っとけばよかった。」

金庫にはなおみのへそくりも少なからず入っていたのだ。仕事のお金もちょうど多く入っている時期だった。それでも、失ったのが現金だけだったことが救いだ。子どもたちの個人情報や会社の情報が入ったPCや書類などが無事だったことの安堵感の方が大きい。これからは、警備システムとまではいかないが、防犯カメラやグッズくらいは準備しようと思う。

さてさて、突然、貧乏になってしまったボクたち。密かに購入を決意し、なおみの許可も下りていた5DMK2(新しいデジカメ)はやっぱりお預けだなぁ…とほほ。それどころか無事に年を越せるんだろうか。

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