OUR DAYS 2009年2009-10-13

「何してんの」

と,なおみが聞く。

「何って,見りゃわかるだろ,ドライヤーだよ。」
「ふふん♪」

意味ありげに笑うなおみの言いたいことは分かっている。これまで髭も剃らずに歯医者さんへ行こうとして,なおみに叱られたこともあったほどなのに,今日に限って洗い髪に丁寧なブローとは如何に?

9月に受けた定期検診で,二人とも虫歯が見つかり,治療に入って,はや一月半。ボクはだらしないので,忘れないようなるべくなおみと同じ時間に予約をしているが,技工士の都合などによっては,先週のように違う曜日になることも多い。駅近くにあるその歯医者さんは,立ち食いそば屋さんほどのスペースしかないのに,診療台が斜めに3つも並んでいて,人当たりのよいドクターの他にアシスタントの女医さんや看護婦さんなど,若い女性がいつも3,4人で治療にあたっている。その若い女性たちの間で,ボクが「とっても優しい」と話題になっていることを知ってしまったのだ。先週,なおみがひとりで治療に行ったとき,ちょうど患者さんが少なくて,雑談でその話になったらしい。

そうなると,ヒゲづらに頭ぼさぼさで通院するわけにはいかなくなるのが人情である。だが,「素敵」や「かっこいい」ではなく「優しい」であるところがミソだ。女性の意識の中で「素敵」と「優しい」の間には大きな隔たりがある。「優しい」にはえてして「かっこよくはない」というニュアンスが含まれているものだ。

01

髪の手入れにはそうした憤然たる思いも少しある。ボクは,昨日いささかキャンパス張りを頑張りすぎたために痛む腰をえいやと伸ばし,細身のジーンズをビシッとはいた。留守番を察知したタローは早くもスネポーズに入っている。

空は抜けるような青空だった。


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