OUR DAYS 2009年2009-11-14

01南から気団が入って急激に気温が上がる。降り続いた雨が蒸発し始め,まとわりつくような湿気に包まれた朝だった。タローの耳はくるくるカールし,スリッパは床に張りついてひと足ごとに音を立てる。雲の切れ間から漏れる光に照らされた屋外は霧が立ち込めたようにかすんでいた。

出勤しようと家を出て車のラジオをつけると,来日中のアメリカ大統領の演説がちょうど終わった。

「いかん!」

次の瞬間,行く手で首都高入り口の電光掲示板の文字が赤色に変わった。要人はたいてい会場から姿を消した1分後には車に乗っている。そして当然のことながら,予め通行止めなどの情報を知ることはできない。突如として行く手の道路が封鎖されるのである。

「首都高は危ない。下を突破しよう。」

激しく生暖かい南風に時折横殴りの雨が交じる中,要人警備と天皇在位20年記念行事が重なった内堀通り周辺は,まるで戒厳令下の様相だった。装甲車,バリケード,機動隊が紅葉したゆり並木の下に居並び,二重橋前には茶会に参加した各国大使を待つ黒塗りの車が列を作っていた。まるで映画のシーンの中を走っているようだった。

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