土曜日,熱が下がらないのに,医療用マスクをつけて仕事を強行したなおみ。帰宅する頃から咳が止まらなくなった。深夜のこととて,薬局も開いてはいない。よほど苦しいのか,ベッドから這い出し,インターネットで民間療法を検索している。どくだみだの花梨だのはもちろん冷蔵庫にない。
>しょうがをすりおろし,手ぬぐいなどに包み染みこませ,のどに貼ると…
ただでさえ皮膚が弱いんだからやめとけよ。
>れんこんの節の部分をすりおろしたものと,おろししょうがと砂糖を…
いやあ,おかゆも受け付けない状態の胃に悪そうでムリだよ。
>濃い緑茶に塩を入れてうがい…
…とあるおばあちゃんの知恵袋より。まあ,これなら。
試してはみたものの,知恵袋敗れたり。一晩中,こんこんという乾いた咳を聞きながら明けた日曜日,開店を待って薬局に行った。
「いちばん効く咳止めください。」
その帰り道,やたらに西の空が暗い。
「タロー,公園には行かないよ。早く帰ってママに薬飲ませなきゃ。」
なおみが風邪をひいていなければ,今頃は久しぶりに八ヶ岳に行って,雪の上でタローを思いっきり走らせてやるはずだった。
「雪になるといいな,タロー。」
結局,昼過ぎにぱらりと雨が降っただけだった。なおみは天才かけうどん生卵入りを半分だけ美味しそうに食べて,一日こんこんと寝ていた。いちばん効く咳止めは良く効いた。