OUR DAYS 2009/3才2009/3/25

なおみはイチロー選手のファンです。

彼女がニューヨークに留学した2001年,イチロー選手はシアトルマリナーズに移籍して,いきなり大活躍しましたがニューヨークの人は誰もイチロー選手を知りませんでした。遠い町のチームに外国から来た新人選手のことを知らないのは当然です。地元ヤンキースとメッツの試合以外はニュースにもなりません。

春。知らない街で,友だちもなく,何をしたらいいかもわからず途方に暮れていたなおみは,ある日ニューヨークタイムスのスポーツ欄に一行の成績表を見つけます。

野球に興味がなかった彼女ですが,それから毎朝,イチロー選手のヒット数が増えていくのを楽しみに数えました。その一行の数字がどんなにかなおみの励みになったことでしょう。やがて彼女も語学学校に通って友だちを作り,バイオリンや日本語を教えるアルバイトも見つけて生き生きと暮らし始めました。

WBCで不調を伝えられていたイチロー選手が,決勝戦で試合を決めるヒットを打ちました。夜の再放送を聞きながら帰宅する途中,ちょうど永田町付近を走っているとき,

「停めて!」

と,なおみが言います。青山通りの脇に車を寄せてハザードを点けました。メーカー純正のテレビなので走行中は画面が見られないからです。延長10回表,ツーアウト2,3塁の場面でイチロー選手が打席に向かいます。もう結果を知っているのになおみは胸の前に手を組んで祈ります。

ボクは何だか車の回りの状況が気になります。テレビの中継車やパトカーがやたらにいたからです。何か事件でもあったのでしょうか。

画面のイチロー選手が見事決勝打。拍手するなおみを横目にボクは車を出しました。これ以上パトカーが来て,とばっちりを受けたらタイヘン。帰宅してニュースを見ると,どうやら永田町では民主党の一郎党首が記者会見をしていたようです。

それにしても,1塁が空いていたのに,どうして韓国ベンチはイチロー選手を敬遠しなかったんでしょうね。

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