OUR DAYS2010年2010/3/17

闇に白く香りて 梅の 散り残る

義祖父の訃報を受け、仕事帰りに急いで家を訪ねた。車を降りると夜気に強い芳香が鼻腔をつく。暗い庭に散り残った梅の花が白く浮かんでいた。祖父が愛した梅の木だった。長い闘病を経て、ようやく帰った主を待っていたものだろうか。

なおみが声をあげて泣いた。

ひと月前、最後に見舞ったときは、小さくなった体をチューブだらけにして病院のベッドに横たわっていた。意識も混濁していたが、ときどき目を開くタイミングに合わせて、なおみがボクたちの名前を書いた紙を目の前にかざすと、じっと文字を追ってそれから微かに笑った。それがお別れになった。

なおみとの結婚を許してもらうために初めて会いに行ったのも、東欧の名も知らぬ街をいっしょに歩いたのも…つい昨日のようだ。

玄関を出ると、もう梅の香りはしなかった。翌朝には散ってしまったことだろう。

NEXT