OUR DAYS2010年2010/11/15

明るい薄曇りに風はなく、とても穏やかな朝だった。タローを連れて遊歩道に出ると、大桜の下にオレンジ色に落ち葉の輪ができていた。他の場所はキレイに掃除されているから、清掃の人が掃き残したとしか考えられない。

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粋なことをするものだと感心していたら、まだ作業中だった当の本人と出くわした。区から委託されているのだろう、今年は中年の女性がこの区間の担当で、毎朝のことだからお互い会えば会釈くらいは交わす。今日はタローが尻尾をふりふり近づいて行った。

「あれまあ、おとなしいのねえ。よしよし」
「はあ、おとなしいっす」

その声に、初めて女性が飼い主の顔を見上げてぎょっとなった。それから視線をタローとボクの顔に何度か往復させたあとでしみじみと言った。

「優しそうな顔がお兄さんとそっくりだね。」
「はあ、優しいっす。」

風がないので、からからと桜の葉が垂直に自由落下してくる。彼女のおかげでボクは「タローとそっくり」で「優しそう」な「お兄さん」として50才の初日を迎えた。

大台を迎えることは2年ほど前から実感していたので大きな感慨はない。ただこれからは何に関しても結果を意識しようと思う。これまで掲げてきた「生涯一小僧」というモットーは、謙虚に勉強を続けると言う意味ではカッコイイけれど、納得のいかない結果に対して、まだ勉強中という免罪符にもなってしまう。それはもうやめよう。

これがボクが精一杯描いた絵です。これが全力で撮った写真、これが乾坤一擲のエッセイです。

それから電車の中で、立っている人が誰もいなくなるまで席が空いても座らないなどという意地っ張りもやめようと思う。もったいないとか、期待されてるとかいう理由でムリに食べるのもやめよう。ヒートなんとかの肌着も買って、手すりには素直につかまり、政治や行政や社会の不正義に怒るのは次の世代に任せよう。

「生涯一小僧」改め「好々爺」

にこにこ自然体で暮らしたい。

誕生日の午後は予報通り冷たい雨になり冬がやってきた。ボクはなおみを連れて新宿の画材店に出かけ、自分への誕生プレゼントを買った。コンポーゼの絵の具が16色。

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油絵に興味のない方はご存じないと思うが、絵の具は一本500円から3000円ほどするので、結構贅沢な誕生プレゼントである。コンポーゼというのはメーカーが数種類の顔料から調合して作った混合絵の具のことだ。

絵の技法書を読むと、必ずと言っていいほど、絵の具は単一の顔料のものだけを使って混色の練習をしなければ上達しないと書いてある。だからボクもこれまでホワイトの他に10色の絵の具だけを使ってきた。が、これからはぬくぬく便利でキレイなコンポーゼをいっぱい使うのだ。

先日、A先生の写生のお供をしたとき、パレットの絵の具をすべてチェックしてなおみにメモさせた。なんとその日使った28色中21色がコンポーゼだった。同じ絵の具を片っ端から買った。さあ、厳しい修業時代はおしまい。ぬくぬくゆるゆるコンポーゼをふんだんに使う。その代わりもう言い訳はなしである。良くても悪くても次から発表するのはボクの精一杯の代表作である。

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