「なあ、よっしー、天国ってこんなとこだとオレは思うんだよ。」
甘夏をひとふさほおばりながらボクはつぶやく。横に並んで座っているよっしーが甘夏をもぐもぐしながら答える。
「え?だってshu、天国って死んだときに行くとこでしょ。あたしたち生きてるよ。ぷっ!」
よっしーが甘夏のかすを飛ばす。ボクも飛ばす。
「ぷぅっ!そうなんだけどさ。そのうちよっしーにもわかるよ。ぷっ!」
なおみが呼んでいる。
「shuぅー!さぼってないで運んでよ。」
「うーん、だがオレにはカメラ係という重要な任務があるからなぁ」
なおみが前夜から考えた作戦は、畑ではドンゴロス半分までつめて運び、あとは籠のまま何回かに分けて車まで往復しようというものである。
クマさん一家と知り合って以来、恒例となっている甘夏狩りに今年も招かれた。なおみの作戦は適中し、ボクがさぼっていても1時間半ほどでスパイクはサスペンションが軋むほどたくさんの甘夏でいっぱいになった。
いいにおいがして、クマさんの豆ごはんが炊きあがる。今年、お弁当のおかずを作ったのは母である。どうしてもよっしーに会いたいと、はるばる八ヶ岳からやってきた。
全景を撮影しようとみかん畑の斜面を登った。眼下に湘南の海が見える。水平線に三浦半島がかすんでいる。よっしーがまた摘んだ花をボクに見せようと坂を駆け上がってくる。
「どうやらやっぱりここは天国らしい。」
ボクはつぶやきながらシャッターを切った。
☆…☆…☆…☆…☆…
クマさんと写真を撮りに行くと、風景や花に混じって、それを撮ってるクマさんの写真がとても多くなる。実際に見たら誰でも納得すると思うのだが、カメラを構えるクマさんの迫力にはついレンズが向いてしまう。その点、ボクの場合…というか誰でもそうだが、そこまでコミカルではないし、愛嬌もないので被写体にはなりにくい。
ところが今回、母の写真の中にやたらとボクが写っている。
しかもよく見ると、クマさんに劣らぬコミカルさを醸しているではないか(笑)