OUR DAYS2011年2011/6/2

タローは最初、白昼夢でも見たかのように、きょとんと目を丸くして職場についたボクを見た。そうしてけげんそうに首を傾げながら立ち上がる。ボクだと確信した瞬間、目が強く光り、ぐぐーっとストレッチして準備すると、激しく尻尾を振り出した。あとはほとんど相撲のぶつかり稽古に近い。むしゃぶりついてくるタローを受け止め、ひっくり返し、抱きしめ、腹を撫でる。それがかれこれ3分ほどはゆうに続いたあと、ボクの手をおしゃぶりにしながら、仰向けに長く伸びて、ようやく落ち着く。

立ったまま待っていたなおみが手に持った毛取りテープをボクの腕や胸にころころと転がした。

「ただいま」
「おかえりなさい」

タローの尻尾がまだリズミカルに床を叩いている。どうやら満足せずにぶつかり稽古第二弾があるらしい。それを見るとなおみは旅行バッグの整理を始めた。互いが別々に過ごした週末の話はゆっくりボチボチと小出しにしよう。何しろ相手の知らない話題をいっぱい持っていることなどそうそうないのだから。

とうとう、タローの飛びつきに屈して尻餅をつきながら、ボクは羽田からリムジンバスで自宅に向かった母を思う。

母にマロンがいて本当によかった。今頃は家でも、マロンが母に甘えていることだろう。くるりと巻いた尻尾を背中で左右に滑らせるように振る。それは柴犬独特の愛らしさである。母は返事をしないマロンに旅のことを話しているだろう。

そして明日になれば八ケ岳の病院でも、やはり返事をしない父に同じ話をして聞かせることだろう。夢のように美しい道東の風景を…。

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