10日,忌中になおたんがやってきた.毎年,同じことを書いているかもしれないが,なおたんとはなおみの誕生日のことで,たろたん,けっきねと並ぶ我が家の三大イベントのひとつである.今年はろうそくを立ててハッピーバースディというわけにはいかない.本人は自粛するつもりで,
「お昼に天才ナポリタンが食べたい.」
などと殊勝なことを言っていた.
さすがに不憫なので,ちょうど日曜ということもあり,ひとつサプライズで銀座あたりにチョコレートケーキを食べに連れて行ってやろうと思い立ったのは数日前のことである.が,しかし!!ボクがチョコレートの店を選ぶというのはあまりに無謀だ.あっさり,きっぱり自分で考えるのはあきらめることにして,こっそりチョコちゃんにメールで救援を頼んだ.
チョコちゃんはなおみの高校時代からの大親友で,HNからしてなおみに輪をかけたチョコマニアであることは推して知るべし.先日のダレダーヨだかダワヨだかの食べ放題にもなおみと同行しているので,ご記憶の方もおられよう.
問題はサプライズのための秘密連絡である.ボクとなおみは24時間いっしょにいるので,誰かと秘密裏に会ったり,電話連絡することは不可能である.唯一の通信手段はメールということになるが,あまりにも約束や時間にだらしないために,ボクの携帯メールは送受信ともなおみに毎日チェックしてもらうことになっているのだ.そんなだから,ボクがメールを送受信すること自体が珍しい.事情を知る人がそもそもボクに用があってもなおみにメールをくれるからだ.
この状態で怪しまれずにサプライズの相談をするのはかなりタイヘンだった.予約した店名や場所や時間を知らせてくるチョコちゃんへの返信は「りょうかい」「ありがと」などひらがなの単語のみ.先にメールをチェックされないよう,いつもポケットに携帯を携帯し,着信音には「ああ,Dさんからメッセージメールだよ.」と言って誤魔化す.Dさんはカメラ友だちで,メールのやり取りはレンズや機材に関するバカ話ばかりなので,なおみのチェック対象外なのである.
チョコちゃんと二人,さんざん苦労したのに,当日丸の内線を降りた頃にはなおみにばればれになっていた.そもそもふだんだらしないボクが時間通りに家を出て,時計を気にしながら歩くだけでも怪しい.
「誰かと待ち合わせてるの?あー,チョコでしょう♪」
「ち,ち,ち,ちがうよ.」
「ち」が四回も続けばもはや「ちがわない」と言ってるようなものである.そうとも知らずに,街灯やビルを盾に取りながら見つからないように待ち合わせの店に近づいてくるチョコちゃんが見える.
予約の名前はチョコちゃんになってるし,テーブルには三つのクロスが調えられていた.チョコちゃんがやってきたときには,もうぜんぜんサプライズになっていない.よく,考えてみるとサプライズにする必要があっただろうか(笑)
メニューを見出すと二人とももはやすべてを忘れて,ケーキ選びに集中している.
選ばれたケーキが運ばれてくる.右がボクの皿だが,正確には「ボクの名前で注文された皿」で,実際に食べたのはなおみとチョコちゃんである.もともと自分たちのケーキを選んだあと,もう半分ずつ食べるケーキとして二人が協議して選んだものだ.
二人とも静かに,正確なピッチで見る見るケーキを平らげてゆく.ソース一滴,果実ひとかけとて見逃されることなく,ひらひらとフォークに載せられ口に運ばれてゆく.いっさい無駄のない動きである.
あっという間に1.5皿ずつを食べ終わった.
「さ,次行こうか」
「うん」
これはこの二人なら当然予測された展開である.
店を出ると空がタイヘンなことになっていた.
てっきり黄砂が関東にも飛来したかと思いきや,強風で地上のちりやほこりが巻き上げられて起きる煙霧という現象らしい.急に風が冷たくなって黒い雲から雨もぱらついた.
だが,次の戦いへ赴く二人には天気などむろん関係ない.
研究と記録に余念のない二人.再び1.5皿ずつをぺろりと食べるが,涼しい顔をしている.
ボクはもう見てるだけで胸がいっぱいになり,ひたすらコーヒーを飲んでいた.
帰宅すると,かこママのちらし寿司が準備されていた.こちらもいちおうサプライズ企画だったのだが,前夜,冷蔵庫にあった茹で海老やでんぶをなおみに発見されてあえなく発覚した.スーパーで買ったパックを裏返してしまっただけで隠したつもりになっているところがかこママらしい.整理魔のなおみが毎晩,きちんと冷蔵庫を片付けていることは想定外だったらしい.
こちら,天才クッカーの即興料理,鱈のポワレ,ウニソース添え.スーパーで20%オフになっていた切り身に,ビン詰めの安いウニに生クリームを加えてソースにし¥たものを添えてみた.
けっこうあれこれ充実したなおたんになった.秘密計画に加担してくれたチョコちゃんとかこママに感謝.