OUR DAYS2013年2013/10/21

どんな生物でも現在生きている種は、それぞれ進化の過程で生存競争を生き残った勝者である。

とりわけ植物と違って自分で有機物を合成できない動物は、それぞれに食べ物を得るための必殺技を持っている。 例えばライオンの爪、キリンの首、霊長類ヒトならばさしずめ農業と畜産だろうか。

犬は…たぶん、オオカミから分かれて、ヒトと共に生きることを選んだ種族の末裔である。 彼らの必殺技は全身、とくに目から発する「ごはんちょうだいビーム」である。

そりを引いたり、狩を手伝ったり、役に立つだけでは生き残れない。 愛らしさマックスの「ごはんちょうだいビーム」は、古代人たちが、自分の食事を削ってでも与えずにはいられないほどに強烈であったに違いない。

わけてもゴールデンレトリバーである。

でかい図体で動作は鈍い、何にでも興味を示す明るい性格は狩りには向かない。そして食いしん坊の大食い…飼ってみてわかるが、レトリバーという名前にはムリがある。 全く、狩猟の役には立ちそうにない。

では、なぜ生き残れたのか。間違いなく愛嬌である。ゴールデンの「ごはんちょうだいビーム」の強烈さは尋常でない。

それが3日間、食べていない。 正確に言うと、始めは食べていたが、全部吐いたり下したりしてしまった。 医者は「点滴したから、今日は食べ物を与えてはいけない」と言った。

タローがうるうる涙目で、真剣なまなざしをまっすぐに向けてごはんをねだる。それが効かないと分かると、今度はすりすり、甘えん坊作戦、さらにはすねてボールを蹴ってみせたり、がっかりとハウスに倒れこんだり。

胸がずきずき痛い。さすがにゴールデンの攻撃である。

その必殺攻撃に半日耐えて、ようやく今朝、医者の指示通り、一食の1/4ほどの量を薬とともに与えた。 ジムから戻ると、元気にお帰りなさいアタックをするので、また1/4ほどを昼に与えた。

午後、散歩に出る。

固く健康的なフンをして、よかったよかった、タロー、体調を崩す後編おしまい…と、なるはずだった。

元気に散歩する様子を撮影しているファインダーの中で、タローが吐いた。
朝から食べた1/4、1/4を残らず吐いた。

「このまま、医者にいくか。」
「もう少し、様子を見る?」

動揺して、路上で話すボクとなおみの様子を見て、タローがよほど悪いことをしてしまったと思ったらしく、不安そうに見上げる。薬が効いて下からは出ない。夕方、チーズのパンを一切れ、夜はふにゃふにゃにふやかした餌をちょっぴりだけ与えた。

後編がその2で終わるかどうか予断を許さない。

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