ゴールデンレトリバーの平均寿命は10才らしい。タローは今年9才になった。
飛行機にタローを乗せて離島に行くことも,母に預けてボクたちだけで旅に出るのも去年の夏に計画した。それはもう今年しかチャンスはないかもしれないと思ったからだ。数字では理解していても,一年前にはその実感は全くなかった。ところが今年になってタローの急速な衰えが顕著だ。飛行機はもうムリかもしれない。長期の留守番はどうだろう。
新しく買った迷子札
ボクたちの旅行はまだ一週間以上先だが,東京の暑さは今のタローにはけっこう辛い。母も「早めに連れて来てやればいいじゃない。」と,言ってくれるので,日曜を利用して,しらべ荘にタローを預けに来た。
タローに気づかれないうちにそっと帰る作戦など全く徒労だった。そもそも,朝からいつもと違う気配に反応してボクのそばをぴったり離れない。庭で母の花を撮っている間もついて回り,ときどきはしゃいだり,走ったりして,何やらアピールしている。
そして,なおみがそっと荷物を車に載せるのも,横目でちらりと確かめていた。その上で,急に家に入れられ「ちょっと留守番しててね。」と言われて,気づかない方がどうかしている。
あ,置いてかれるんだ。
…もろにそういう顔をしていた。
母からのLINEによると,タローはボクらの車がまだ高速に乗らないうちに,こうして玄関に陣取ってボクらの帰りを待ち始めたらしい。
「犬には時間の感覚がない」
どこかのバカな学者がそう説いているらしいが,犬を飼ったことがないのだろう。確かに翌日帰ってきても18日後に帰ってきても犬の反応は同じかもしれない。それは時間がわからないからではなく,いつ帰って来るのかを知る術がないからである。こうして,毎朝,毎昼,毎晩,今日も帰ってこなかったと思う日を重ね,ある日,本当に帰ってくるだけのこと,反応は同じで当たり前である。