午前中は今までとタイプの違う鈍痛が長時間続いた。鎮痛剤が効いているのかそれとも薬で溶けて石が小さくなっているのか。昼前,うとうとしていたら,なおみが布団の上にダイブしてきた。
「仕事,終わったー♪」
うががが。いててて。どけどけ,どいてくれ。風邪が治らないうちは仕事したらダメだと言っただろ!
「平気。パブロン飲んだらくしゃみも喉の痛みも止まった。」
この時期になると,なおみは休みの半分くらいを予習に使っている。彼女の英語の授業は計画的でムダがない。流れるように進み,個別のケアも丁寧で評判がいい。出たとこ勝負,ホワイトボードで問題を解き,力でねじ伏せるように子どもたちの尊敬を勝ち取って進めていくボクの数学とは対照的だ。
鈍痛は続いていて,胃腸の調子もすこぶる悪い。薬の飲みすぎだろうか,はたまた結石で倒れる前に一週間ほど苦しんだ胃腸炎がまだ良くないのか。
「お昼,何がいい?」
いらない。食欲がない。
布団を被った。痛みのためもあって,語気が荒くなってしまった。妻は黙って寝室を出ていったが,まもなく,
「じゃーん♪沼田のお餅。少し食べて薬は飲まなくっちゃ。消化もいいでしょ。」
冷凍してあった餅を磯辺巻きにして枕元に持ってきた。仕方ないのでそれを食べてコップになみなみのドクダミ茶で薬を飲むと,
「ジャンプジャンプ」
と言って自分で先にピョンピョン始めた。布団から出てジャンプした。そのまま,またベッドに潜り込んだ。1時間ほどうとうとして目覚めると。新しいドクダミ茶が運ばれてきた。
「ちょっと笹塚まで行ってくるー♪」
な,ならん。風邪ひいてるんだから大人しくしてろ!
「行ってきまーす♪何かあったら携帯に電話してねー♪」
ま,待て。な,ならぬ!!
玄関ドアの閉まる音がして,自転車が軽やかに遠ざかった。
…ならぬものはなりませぬ。さすがに銀座や新宿に行かないのはすぐに戻れないからだろう。朝。鏡の前でハイネックの上にトレーナーを着こみ,
「何だか色合いがおかしくない?」
と言っていた。
そんなことない,大変いいと思います。痛みがあったので,見もしないでそう答えた。不満そうに尚も鏡を見ていたので。ハイネックのセーターを買いに出掛けたに違いない。そもそも休日である。例えおかしくても,会うのは隣のおばあさんとか生協の配達くらいのものだ。
午後3時。鈍痛が今日初めて激痛に変わった。携帯を手に取ったが,ダイヤルはしなかった。スーパーの2階までチェックして,色と形と値段の折り合いを探していることだろう。発作は小一時間,なおみが戻ってからようやくおさまった。
肉ジャガ食べたい!
「オッケー♪」
また自転車が遠ざかった。いつから我が妻はあんなにタフになったのだろう。肉ジャガとホタテのサラダと味噌田楽は少々ムリだった。気持ち悪くなってベッドに行ったが,ドクダミ茶と薬が追いかけてきた。ジャンプも。寝室の灯りを消すので,お前はこれから何をするかと聞くと,
「録画のドラマ見ながらドクダミ茶煮出してみる」
義母がボトルと一緒に送ってきた生の葉である。
青臭い香りが漂ってきた。まもなく淹れたてが運ばれて来るだろう。ホットドクダミ茶,強烈なのである。
更正や推敲やカットは後日。痛みを紛らすためにとにかく今日一日を書き付けました。今夜は雪になるかもしれないそうです。発作が始まりそうです。おやすみなさい。
画像は救急搬送される直前に河原で撮ったタローです。