OUR DAYS2017年2017/3/12

義弟の結婚式に出席するためにニューヨークから義伯母が来日した。ボクはこの伯母が好きである。また気が合う。なおみが家出する前に何かの用で来日したときも,あきらかに実家で煙たがられていた恋人(当時)のボクを歓迎してラザーニアを焼いてくれた。

若いときに,単身,声楽家として渡米したが,音楽で知り合った青年と恋に落ちて結婚した。そしてニューヨークで共働きしながら三人の子どもを育てた。

今やすっかりニューヨーカーで結婚式のショートスピーチでも日本語ではうまく話せなくて,途中から英語になってしまった。

この時期,毎年恒例になっているなおみの実家のホームパーティに今年は新婦とともに伯母も参加した。


天才クッカーの今年のエントリー作品はこれ。

◇燻製帆立バター菜の花添え
◇マグロのズケシュウスペシャル
◇牡蠣のがんがん焼き特製ホットソース
◇なおみが揚げた山菜天ぷら



料理上手の伯母の作品

生のセロリにピーナッツバターをたっぷり詰めてレーズンを並べただけのシンプルで何これ的なシロモノ。…ところがこれが絶品。


義母もまた料理自慢,二人の嫁(義妹)もそれぞれマイブーム料理を持ち寄って,毎度のことながらいったい何人で食べるのかと心配になるほどの量である。

「あたくしはシュウイチさんにお願いがあるのよ。」

と食事の後で伯母が数枚のコピー用紙と布製の小さなタペストリーを持ってきた。伯母の入信しているキリスト教宗派はまことによい人ばかりだが,いろいろな戒律や義務があって,そのうちのひとつに「祖先のことを調べて自らのルーツを明確にする」というものがある。来日するたびに長く滞在するのは専らその調査のためだ。今回は海軍航空隊の射手として出征して戦死した親類についてその家族に話を聞いてきた。B4の紙4枚にぴっしりとコピーされていたのは,戦友が届けた射手の戦死の状況を記した報告書である。少々脚色して,お国のために華々しく散ったようすが緻密な文章でつづられている。


この文語文にふり仮名をつけ,現代語訳をするのが伯母のお願いだった。これは時間がかかるがお安いご用だった。


タペストリーは「五省」と題した旧海軍兵学校の訓戒で,こちらは現代語訳しても意味がわからないので英訳する必要があった。


ギャラはもうもらっている。

ボクがニューヨーク滞在中にウォルマートというスーパーで買ってやみつきになったこのお菓子。

しょっぱいニューヨーク風プレッツェルを模したクラッカーに甘いヨーグルトクリームがコーティングされている。かさばるのにいつも東京に来るときはボクのためにこれを買ってきてくれる。

伯母もボクの手伝いをとても喜んでくれた。

「シュウイチさんしか頼める人がいないし,今度いつ来れるかわからないから…」

伯母さん「ら」が抜けてますよ。

伯母が渡米した頃はまだ「ら」抜きことばはなかった。誰かがニューヨークに持ち込んだことになる。ボクは当時のままに美しい伯母の日本語も守っている。彼女の夫や子どもたちまでが「たいへんだ」の代わりとして気軽に使っていた「めんどくさい」は「So messy」に近くて,使いこなすのは難しいからという理由で禁止したのもボクだ。

伯母の帰国はニューヨークの大雪のために数日遅れた。

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