半月ほど前,授業のあとになおみ先生がY星を呼んだ。
「どうして昨日も今日も無連絡で補習に来なかったの?」
「…」
「どうして?」
「すみません」
Y星は勉強が苦手で英単語がなかなか覚えられないので,単語テストが及第せず居残りになってしまう。
不憫に思うなおみ先生が夜遅くまで覚えるのをいっしょにつき合ったり,とても終わらないときは翌日補習に呼んでいる。
それがもう2年近く続いているが,本当に忘れてしまうのか,それともいやになってしまうのかY星は頻繁に約束をすっぽかす。
「あたしとの約束は破ってもいいと思ってるの?」
「…」
「あたしは傷つかないと思ってるのね。もう,いやです。約束はしません。Y星が補習に来たいのならい見てあげるから来なさい。あたしからはもう言いません。」
「…」
「KoYo!親友なんだからあなたがときどきは注意して一緒に来てあげなさいよ!」
呼び出しに付き合って来たKoYoがとばっちりを受けている(;^_^A
なおみ先生が本気で叱るときはいつも涙ぐんでいる。卒業生から「シュウ先より怖かった」と恐れられる所以である。
さて,Y星が反省したのかと言うとそれほどでもなく,相変わらず単語テスト不合格が続いた。
ほどなく彼らの中学が修学旅行となった。たいていの子たちは単独でまたは何人かグループで出し合って,教室に八つ橋などを買ってきてくれる。それをみんなで食べるのがこの時期,教室の風物にもなっている。数が多いと,下の学年の子にも恩恵が及ぶので,その子たちが中3になるとまた買ってきてくれることになる。KoYoやY☆もそれぞれ八つ橋やクッキーを買ってきてくれた。それとは別に…
「先生」
カウンターに一人で来たY星がなおみ先生を呼ぶ。
「これ…」
と言って小さな袋を手渡した。
最近,なおみ先生は「すみっコぐらし」がお気に入りで色々なグッズを集めては,女の子たちと自慢しあったり交換したりしているのは周知のこと。
だが男の子が京都の土産屋の店先でこれを見つけて(探して?)手に取るまでの気持ちを想う。
ボクたちがこの仕事にはまってしまっているのはこういうことが毎週あるからだ。辛いことの100倍くらいいいことがある。