ちょうど一週間たった水曜日も弔問客は続き,芳名帳の人数はとうとう85人を超えた。記入していない在校生を加えると140人近い人が手を合わせてくれたことになる。今日買い足した3つの花瓶がもうぎゅう詰めになった。駅前の花屋さんにはワンちゃんコーナーができたらしい。ボクたちは目の回るほどの大忙しで悲しんでいるゆとりがない。懐かしい子,久しぶりの卒業生,親御さん,みんなタローにお別れに来てくれる。
教室にはタロー係というのがあった。授業後,事務で忙しいなおみ先生に代わってタローに餌をやる係である。学年から二人が選ばれ,ことタローに関しては他から一目置かれる存在だ。授業が終わった雰囲気を感じ取ると,タローがタロー係を探してすり寄る。うらやましくても他の子は手が出せない。
初代タロー係のサヤカはもう美貌の社会人。仕事が終わってから駆けつけ女優のような大きな目からぽろぽろ涙をこぼした。ちょうど中3の授業が終わったときだったので,現役タロー係のタツキ・タイガと顔を合わせた。
ウーがナナがソラがヒロカがマイコがナツ・リコがタツヤがケンタがコバケンがシノとマイコとサツキがケンスケがケイイチローがユースケシュンスケがミサキハルカがミクとオトワが…みんなみんな想い出を胸にやってきた。リクとタイガはなかなか連絡が取れないがそのうちに誰かから聞いてあわてて飛んでくることだろう。タローはいったい何人の人たちに愛されてきたのだろうかと改めて思う。
ダイゴはお母さんが花束を持って来てくれた。タローが好きで好きで,とうとう家でもハチという名のゴールデンを飼いはじめた。
だがダイゴは大学生のとき心臓発作で急逝してしまった。きっと今頃,虹の橋で再会しているだろう。タローとダイゴのかけっこ&水泳勝負の決着はこの世ではつかず仕舞いだった。