OUR DAYS 2022年2022/5/5

なおみの「やることリスト」はバレエ鑑賞,サイクリング,バイオリン練習という大きなイベントを除いてのものである。

連休に入る前日,職場から持ち帰るものは膨大だった。バイオリン,楽譜どっさり,チェロ,水彩画の道具一式,紙3種,エレキギターなどなど。

ボクたちの連休はある意味,仕事の日よりも忙しい。ただ,やり切るなおみと挫折するボクという図式は毎年変わらない。

初日から猛然と予定をこなしていくなおみ。ボクも絵本のレイアウトを考え,チェロとエレキの練習をした。チェロはもうかれこれ1年くらいずっとカノンを練習している。チェロのパート全体の7割くらいがゆっくりなら弾けるようになってきた。秋には愛先生の教室の発表会に出るつもりで,その曲ももらった。

ギターの方は現在バンドで練習中の2曲のうち1曲は自由にアコースティックを弾かせてもらえる曲で,もう1曲はヴォーカルだけでボクのギターがない。下手過ぎてギターで参加できないというのが実情だ。そこでここ半年は焦らずにカッティングの基本をマスターしていこうと思っている。YouTubeには初心者のためのカッティング講座のようなものがあふれている。

動画を見てふむふむと指を動かしてみる。

「ゆっくりできるようになったらだんだんスピードを上げて…」

ふむふむ

「50くらいのメトロノームに合わせられるようになったら」

ふむふむ

「それにピッタリ合わせて」

ふむふむ

「6時間続けて下さい」

えー?!(⌒-⌒; )

髪がぼさぼさの一見軽薄そうなギターリストが6時間弾き続けろとこともなげに言う。それは取りも直さず彼自身がそうしてきたということに他ならない。ボクには逆立ちしてもギターを6時間弾き続ける根性はない。やっぱり小僧でも上手な人は違うとつくづく実感した。

 連休2日目に予期しなかった事態が起こった。弟の奥さんの母親が亡くなってその葬儀である。

スキルス肺癌。今年の正月にはまったくの健常者だった。2月に胃がんが見つかったと弟から連絡があり,もう助からないと聞いて会いに行ったのが3月の末。そのときはまだ自分で歩いて大きな声で「まあ,シューイチさん,お久しぶりー」と笑っていた。その後,症状が悪化してホスピスに入所手続きしたが,還らぬ人となったのは入所数日のことだった。速い。スキルス癌は発見されたときにはもう手遅れだという。

3日目は朝からサイクリングに出た。腰痛による運動不足を少しでも解消しなくてはならない。 

走り出しは北の丸公園の駐車場から。

武道館に人垣ができていた。「すとぷり」というらしい。ストリップではない。幟にアニメ顔のキャラクターが描かれているがアニメおたくの集まりでもない。男5人組のアイドルグループだという。すとろべりーぷりんすの略とかでメンバーにもころんとかさとみとかるぅととか平仮名の名前の人が多い。学生時代にインターネット上で顔をさらすのは危険だと教わってきたからライブ以外では顔出しNGだそうだ。それで露出しているのはアニメ顔のキャラクター。子どもではない。25才前後の大人たちである。まったく理解不可能だが武道館でコンサートするほどの人気を博している。武道館でコンサートするということは,ビートルズとかアリスとかと同じ特別な人たちだということになる。

先週の出勤時には輝くようだったユリノキ並木の新緑の美しさにもかげりがある。

卯の花。今年は4日が節分,5日が立夏。旧暦では卯月節(四月節)と言う。背景の青は空ではない。桜田濠の水面である。

どこで撮ったかというとこんなところである。

桜田門の丸く刈りこまれた植木。これがまさかにウツギだとは咲かなければわからない。

皇居前広場から沖縄県アンテナショップ「わした」に行く。毎春,宮古島の物産を買ってタローを偲ぶのが恒例になっている。

今年も首尾よく島らっきょうが手に入った。なおみが会計している間に何気なく隣の高知県に入ってイタドリを発見した。四万十川が舞台の小説で読んで以来,一度食べてみたいと思っていた山菜である。沖縄の会計を済ませてきたなおみを走らせると,リュックに入るように切ってもらって買ってきた。島らっきょうとイタドリが同時に簡単に手に入るところが指すが銀座である。

母が留守番しているので昼には帰らねばならない。

家に戻り手分けして蕎麦の昼食を調えた。

なおみがイタドリの穂先を天ぷらにした。酸味があってルバーブに似ている。

午後,間髪入れずになおみはやることリスト6番のスワン作りに入った。

かなり気合が入っていたがいろいろ手違いを起こしてシューの皮がふくらまずせんぺいのようになった。

クリームも加熱時間がわずかに長くグミのような食感だった。

それでも見た目と味だけは義母ゆずりの美味さだった。…と書いておこう。

もちろんこの日はボクもチェロとギターを練習した。6時間とはいかないがピックが割れた。

宮古島で食堂や居酒屋に入ったわけではない。犬と泊まれる素泊まりのゲストハウスに滞在した。宮古島料理はスーパーの食材でボクが作った。だからこれがボクたちにとって本当の宮古島の味である。

さて,ボクが精力的に休日を有意義に過ごしたのはここまでである。

4日目の午前中から腰の状態が悪化した。何もしていなくてもうずくような痛みが出た。久しぶりにリリカを飲んだ。薬が効いている間は何とか体を起こせる。ボクはほとんど横になってタブレットで絵を描いたり,サイトの整理などをして過ごさざるを得なかった。

なおみは一晩かけて灰汁抜きしたイタドリをきんぴらにした。これはうまい。絶品だった。煮物にすると酸味もない。

彼女は必要なお出かけも積極的にしていた。最後に記しておくのはなおみを代々木上原まで迎えに行ったときに起こった事件である。

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連休前に眼鏡を新調した。標識の文字が見にくくなってきたので乱視の度をマック上げた。正面はとてもよく見えるようになったが側面の視界の歪みになかなか慣れない。

自分の家の車庫入れでミラーをこすった。バキッと音がして赤いカバーが宙に飛んだ。10万円コースかと思われたが,音のわりに被害は少なく,カバーは手で元に戻った。ミラーやフラッシャーの動作にも支障がない。いちばん外側のレンズが割れていた。修理屋さんの概算では5千円ほど。ウチの車庫には40年間,約1万2千回も入れしていて,ぶつけたのは初めてのことだ。

腰は5日目も治らない。リリカが効くのが唯一の救いである。

最終日の夕方,やはりグズグズとしていたら,自転車で買い物から帰ってきたなおみに

「シュウ,ちょっと外に出て来てくれない?」

と呼ばれた。薬が効いて,表に出てみると用件は

「空がきれいだ。」

ということだけだった。

腰の痛みは4日の午前中ほどではなく,徐々によくなってきた。リリカを使えば仕事もできそうでほっとした。ぎっくり系かもしれない。

なおみのリストは「デリーモ」を除いてすべての項目に旗が立った。デリーモは予約が必要なことがわかったのでペンディング事項となっている。バイオリンも全日練習した。ボクは結局,絵本を進められず楽器の練習も2日しかできなかった。

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