
帰りはまっすぐに南下して国道66号線(ルート66)に出ることにした。バイソンに会って満足したのか,ドレミがくうぅっと寝てしまう。

ときどき,寝ぼけたように
「道,大丈夫?」
と言いながら起きる。
「寝てろ。」
こんな道,間違いようがない。

太陽に向かってひたすら南下する。アクセルに石でも置いてボクも居眠りしたいくらい真っ直ぐな道が,ゆるやかな丘陵を登ったり下ったりする。牛もオイルウェルも地平線もさすがに見飽きた。

行く手

来た道

拡大図

途中,不気味な赤茶色の巨大河川をいくつも渡った。66号線に近づいてようやく青い川を見た。眠り姫もお目覚めである。

通過した小さな町の広場。なるほどこうしてバイソンが減り続けて,とうとう保護するまでになったわけね。

腰を伸ばして一服する間に,通りがかった車から夫婦が
「きょうは土曜だから商店街は休みよー。」
などと声をかけてくれる。

お腹がすいたのでこの町のコンビニに行った。

タバスコである。コンビニにあるということは,これが標準サイズということになる。

「コーヒーはこっちだよ。」
店員さんではない。順番を待っているわけでもない。

チリパウダーを効かせたひき肉を包んで揚げたトルティーヤに挑戦。けっこううまい(帰国して再現してみた)。

洗車機にも挑戦。

予告なくいきなり始まる。

拭きあげ用に大きな紙の使い捨てタオルを売っている。エコとか自然保護とか無縁らしい。
ルート66は開拓時代からの幹線道路でオクラホマ州を東西に貫いている。旧道には開通当時の石橋や歩道が残っているところがあるらしい。タルサ付近にも地図の上に史跡らしき表示がいくつかあったのでそれを目指して南下してきた。

ルート66を西に走り始めてまもなく「史跡」の小さな看板を見かけたので脇道に飛び込んで住民に聞いてみた。
「向かいの家のばあさんがそういうのくわしいよ。」

で,向かいの家のお年寄り宅。
「古い橋ならこないだ取り壊した。」
「え?こないだっていつですか?」
「戦争のあとだったか。」
南北戦争ではないだろうがこないだでもない。

結局,旧道跡は見つからなかった。それでもルート66は日本で言えば「東海道」ほどの知名度がありガソリンチェーン店の屋号にもなっている。
持たせてもらったネイサンの携帯にウイノーナから電話が入る。JJがおすすめの美味しいバーベキューをテイクアウトできる店を教えてくれたという。

教えられた通りにタルサの市内を走ると,バーベキュー専門店があった。

バーベキューと言えば日本では食材を串にさして炭火で焼くことを指す。下手をすると野外で焼肉することをバーベキューと呼んだりもする。
ところがバーベキューとは,もともとテキサスやオクラホマあたりの郷土料理で,金串を貫いた骨付き肉を24時間回転させながらタレで焼き上げる肉料理のことらしい。
どこでどうなって野外焼肉のことになったのだろう。

サイズも標準的な値段もわからないので,適当に何種類か5,000円分ほど注文したらタイヘンな量になってしまった。

帰宅するとウイノーナもごちそうを作っている。彼女は料理の研究に熱心だ。帰国してからボクがこの日彼女の作った料理のレシピをメールで聞こうとすると,それより先に彼女から「魚の唐揚げ,甘酢漬け」と「エビチリ」のレシピを問い合わせるメールが届いていた。以前からのライバルである。

ジローとサブローは隣りの家の裏庭に飼われている二匹の犬だ。名前はもちろんボクがつけた仮名である。飼い主が餌を与える以外は庭に放置しているので人恋しいらしく,ボクが煙草を吸いに出ると必ず飛んでくる。そして必死にフェンスに取り付いて差し出す手に争ってむしゃぶりつく。
ボクがかまっていることに気づいた隣家の住人が,それをきっかけにウイノーナと話す機会を持った。実はこの二頭はネイサンとウイノーナが越してくる前の住人が庭に置き去りにした犬だとわかった。隣家の主は憐れに思って彼らを引き取ったのだが,放置しているわけではなくショックで散歩を嫌がるのだそうだ。ウイノーナはときどき自分も散歩に連れ出してみたいと申し出て快諾されたと喜んだ。彼女もずっと気になっていたのだろう。

ベッドに寝転んでストレージ(携帯ハードディスク)の写真を整理し始めると,ミミがやってきてぴょんと膝に乗る。人見知りする猫と猫が苦手なボクは互いに譲歩しあいながらとうとう仲良しになった。

「ずっとベッドを占拠してて悪かったな。あしたからまた,ウイノーナがベッドの主だよ。」
みゃあああ,…と,興味なさそうになく。

ウイノーナの心尽くし。肉もトルティーヤも抜群の味だった。

アボカドのディップ,ワカモーリ・ウイノーナ風は,すり鉢で作ってる。

これが買ってきた元祖バーベキューだ。

洋梨のコンポートにアイスクリームとチョコと焼いたアーモンド。
帰国の日が来た。
外はまだ暗いが朝一番のミネアポリス行きなのでそろそろ空港に行く時間が近づいている。ドレミは洗面用品を片付けたり,シーツをたたんだり忙しい。ボクは戸外に出て煙草に火をつけた。
日曜の朝,町はまだ眠っている。静かな家々の一軒一軒に,夫婦が,老人が,子どもたちが住んでいる。みんなが喜びや悲しみを繰り返し,みんなが夢を持ち,大切な人を思って暮らしている。世界中で出会うことのない何十億の人たちがこうして生きていることを旅は実感させてくれる。
ジローとサブローがボクの気配を察して起きてきた。そうそうペットたちも生きている。お前たちも仲良く元気でな。
日本は今頃夕方だ。両親に預けられているタローは八ヶ岳で10日目になる夕ご飯を食べているだろうか。もうボクたちとは会えないと思って,山の犬として生きてゆく決意を固めているかもしれない。明日の朝,弟が車で東京に連れて帰ってくれることになっている。
ネイサンが起きてきてドレミと何か話している。空港にはネイサンが送ってくれるらしい。ウイノーナは教会で朝からの仕事があるので見送らないで寝ているそうだ。
もう数時間したらボクたちの去ったタルサに日曜の朝が来る。

トランペッターは遊びをせがむやんちゃな娘に馬乗りで起こされていることだろう。

アンソニーは教会に出かけるときからもう夕飯のごちそうが待ちきれなくてきっと奥さんに献立を尋ねるに違いない。
「今日は寒が戻って少し肌寒いからシチューを煮ましょう。」
「ぐっれいと!」
…なんてね。

タラクワのガイド氏は休日だから観光客も多くて忙しいだろう。弓矢を何十本も射て何度もブーガーダンスを踊らなければならない。それに備えて朝食はベーコンエッグにチーズとグラノーラでしっかりと摂る。

オーセイジのご老体は毎週日曜の朝には,亡くなった開拓時代の友だちや家族のために祈っている。そうしていつもウッドデッキにもたれてバーボンを一杯だけ飲むのだ。
「そう言えば先週は珍しい東洋人の観光客を見かけたよ。」
きょうは天国の友だちにそう話しながら…。

みんなどうぞ元気で。

さようなら。

迎えに行ったとき,甥っ子と散歩中だったタローはボクらをみて最初きょとんとしていたが,我に返ったように駆け寄ってきた。

完