想像をはるかにはるかに超えていたタローロスの苦しみ。
だがこのままと言うわけにはいかない。まず体がもたない。そして回りの人に心配をかけすぎている。春が足早に過ぎようとしている。
なおみは体調も心も上手にコントロールしている。ショッピングに行ったり,バイオリンの練習をしたり。
「あたしたち,タローが来る前は休みの日に何してたっけ?」
本気で聞いてくる。何をしていたっけ。たぶん変わらなかったのだと思う。でも,タロ散歩してタロシャンプーしてブローしてハウスの布団を干してシーツを洗って毛が乾くまでボール遊びしてブラッシングしてまた散歩に行く(もっとも散歩とシャンプー以外はなおみがひとりでしていたのだが…)。それが全部なくなった。
母とマロンが八ヶ岳に行って最初の休日。この時期はたっぷり日月と休めるがボクたちは本当にすることがなくなって戸惑った。ボクは何度か油絵をしようとしたがとうとう手につかなかった。次こそはと思う。
手をこまねいているわけではない。ホントに必死で出口を探している。
やる気が全くなくてもどうにかこうにか始めてみれば手は動く。仕事と同じように意識は持っていかれる。集中できる。
藤を撮るため,仕事帰りの深夜,亀戸天神に寄った。
こんなとき三脚の脇にはいつもタローがいた。
ライトアップの時間はとっくに過ぎていて藤の花があまり見えない。なおみにストロボを持たせて露光中にフル発光させる。最初,水面に向けたらカメを驚かせてしまった。
「あちゃー(;^_^Aかわいそうなことした。地面だ,地面に向けて。」
今度は石畳にバウンスさせてみた。
あたり一面藤のいい香り。タローがいなくても楽しい。どこかを訪ねたり何かをしたりする楽しさとタローのことは切り離して考えなくてはいけないと思うことにした。ここでタローがいないからとくよくよしても始まらない。ボクたちのことを心配してくれる人がたくさんいる。