調理中の熱いフライパンを床まで落下させた。
もはや新鮮な驚きはなかった。
「はいはい」
…という感じである。
ここ数年の運動神経や反射神経の低下速度は激しく,有り得ないような失敗も受け入れざるを得ない。
床材が白く溶けて大きな跡がついた。
なおみがボクの絵描きとしてのプライドを慮って頼みづらそうにしているのでボクの方から申し出た。
「油絵の具で塗るよ。」
ローアンバーに少量のバーンとシェンナとチタニウムホワイトを混ぜて気持ち濃いめにした。
乾くとホワイトが効いてくる。
「さすがぜんぜん見分けがつかなーい」
当然である。キズの深さに合わせて厚塗りしてあるので奥が乾燥するまで少々時間がかかる。
うっかり踏んでしまわないようになおみが目印にかごを置いた。