OUR DAYS 2021年2021/07/22

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なおみの名誉のために最初に記しておくと、彼女は潔癖症に近い掃除魔である。毎日家中を掃除機し、布団は5日と開けずベランダに運んで干す。ボクもあれこれだらしないところを注意されるが逆らうことができない。我が家は少々居心地悪いほど清潔に保たれている。だからこの恐怖の事件は誰の家にも起こる可能性がある。

その大事件…ダニー・クライシスである。

ある朝,目覚めたドレミがベッドで悲鳴を上げる。太腿からふくらはぎにかけて無数のダニの噛み跡があった。無意識に掻いてしまって腫れ上がっている。虫刺されの薬を買い足してベッドに防虫スプレーを施した。だが,それは恐怖のほんの始まりだった。対策をあざ笑うかのように翌日は,腫れた患部の隙間に噛み跡が増殖し,翌々日には下腹部から背中全体に広がった。隣りに寝ているボクもひざやふくらはぎに20×2か所ほどの被害を受けたが性差だろうかボクの血はあまりおいしくないのだろうか,ともかく同じ条件なのに襲われ方に大きな差がある。なおみの全身は斑に腫物で覆われ,まるで業病を患った患者のごとく直視できないほどの無残さとなった。

なおみは鬼と化した。ひとつには全身を襲う激しい痒みのため,もうひとつは清潔好きのプライドを打ち砕かれた悔しさからである。薬屋にホームセンターで薬剤を買い求め,アマゾンやヨドバシからは連日,家電やグッズが届いた。およそ市販されているありとあらゆるダニ対策グッズが山のように揃った。

心当たりがあった。事件の数日前に電気関係の工事で,業者の人が押し入れから天井裏に入った。おそらくヒョウヒダニかコナダニもしくはその卵を衣服につけて寝室に落としたと思われる。それを狙ったツメダニが集まり,増殖爆発した可能性が高い。

ある日,床をはねた黒い粒をなおみが見つけてセロテープに封じ込めた。いくら凝視しても黒い点にしか見えない。そこでミラーレスにツァイスのマクロを装着して撮影し,PCに落としてモニターで拡大してみた。果たして粒には足があった。見えなかった敵が初めて特定された。薬剤や薬もツメダニに照準を合わせた。

殺虫剤は卵には効かない。5日あけて二度,天井裏まで説明書の1.5倍の煙をお見舞いした。

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卵や死骸がベッドに残ると再びツメダニを集める可能性がある。強力パワーのベッド専用掃除機はボクの担当となり、新しい習慣となった。毎日15分くらいをかけて入念にすべての寝具に掃除機をかける。天日干しの頻度もさらに上がり,就寝前にはむせるほど防虫スプレーが使われた。

そして事件発生から2週間してついになおみから完全撲滅宣言が出た。なおみの足やお尻や背中の腫れもどうやらひいて跡が残るほどにはならなかった。ボクは思わず「戦い終わって」を口ずさんだ。サイボーグ戦士たちの戦いと同じくらい激しく壮絶な戦いだった。

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