「しょうがない。付き合ってあげるか。」
前夜,なおみが言った。もちろんいやだと言っても連れて行くつもりだった。
梅雨の晴れ間というには朝からあまりに強い日差しが降り注いだ。自転車で行く予定だったが危険なのでやめた。新宿の南口を出るとまぶしくて目が開けられないほどだった。
映画はたぶん5年ぶりだ。
朝いちばんなのですいている。
やたら実力派の俳優たちが,自衛隊や専門家の対応,政府や諸外国との関係を細やかに描くことで,超人や怪獣に現実感をもたせている。小さい頃に見たブラウン管の中のウルトラマンは,子ども心には確かにこれほどのリアリティを持っていた。それを心地よく裏付けてくれる。スタッフも一流だ。だが,元を質せばそれはすでに平成ガメラ三部作によって最初になされていた。今さらながら平成ガメラを作った金子修介と樋口真嗣の功績は大きいと思う。
公式ホームページより
ザラブ星人の手に悲鳴を上げてなおみに笑われた。涙は場内が暗いうちに拭いた。
怪獣映画でも素直なストーリーはなおみの心にも届く。
「面白かったね。」
と妻は上気しながら言ってそのまま予定通りショッピングに行った。
ウルトラマンを見たからだろうか。ボクは何だか力が湧いてきてとなりの世界堂にあてもなく入り,彩度の高いクサカベの透明水彩絵の具をふたつ,気軽に描けるリング綴じのホワイトワトソンを買った。買うものが決まっていないのに,画材屋でショッピングしたのは腰を痛めて以来,おそらく10年ぶりくらいのことだ。
さらに新宿御苑に近い世界堂から西口新都心にある酒屋まで炎天下を歩いた。軽く一駅分はある距離だ。こちらも記録的できごとと言える。
めあてのフランケンワインを見つけられなかったので,レジにいた二人の年配の女性店員に聞いた。瓶の形を指で作りながら「いつもここで買っている」と説明したが二人ともきょとんとするばかりだった。奥からいきなり若い男が現れて
「ドイツのワインですね。」
と,先に立って案内してくれた。ブドウ栽培の北限に近いライン川やマイン川流域産のワインの旨さに意気投合した。気持ちよく買い物し電車で帰宅した。ボクの腰の状態からは信じられないこと…たぶんウルトラマン効果である。
なおみはなおみで満足のいくショッピングだったらしく,荷物が多くなりすぎたために結局車で迎えに行った。