Apr.2012

大ナマズが横たわってるのかと思いましたよ,最初見たときは…。 もう,目が点になるってホントにあるんだなぁって。

…まあ,聞いてください。経緯はこうです。レンタカーを予約するとき「インターネット限定春のミニバン割引フェア」ってやってたわけです。

「どうだろう,一週間も走るんだから,車は少し贅沢して,ゆったりミニバンにしようや。」
「うん,そうね。」

普通はしません。何となればヨーロッパのレンタカーはほとんどがMT(マニュアルトランスミッション)だからです。左ハンドル(右手でチェンジレバー操作),右側通行,石畳の小路,ラウンドアバウト,路面電車,国ごとに違う標識やマナー,慣れないレンタカー…

…ね。MTどころかレンタカーそのものに二の足を踏むところでしょ。ところがボクは車の運転がちょいと上手でそれらが全く苦にならないのです。

学生時代にレンタカーで大型車回送のアルバイトしていたことがあるからです。時給のよい回送係に必要な大型免許を取るために試験場に行って,確か5回目くらいで一発試験に通ったのが自慢です。運転好きのボクにとって,春のミニバンフェアはとても魅力だったわけです。

もちろん予約したのは,オデッセイなどが代表車種の小型ミニバンクラスで,現地のカウンターで支払ったのも確かにそのクラスの料金でした。ところが鍵を受け取って,指示された駐車場に行くと,このナマズが寝そべっていたというわけです。

レンタカーでは適合車種の都合がつかないとき,同じ料金でワンクラス上の車を出すのはよくあることです。しかしこのナマズはやりすぎでしょう(笑)写真でも一目瞭然,全長5m,高さ2mを超える巨体です。さすがにカウンターに引っ返して談判しようかと思いましたがやめました。受付係のカタコト英語にウンザリしていたこともありますが,駐車場に並ぶ見渡す限りのレンタカーの中で,ミニバンはこの大ナマズだけだったからです。どこが春のミニバンフェアだよ!これではたとえ談判しても代わりのミニバンはないでしょう。

「ふん,仕方ない。わかったよ。お前の名前はナマズだ。しっかり走れよ。」

ボクはナマズに話しかけながら運転席に乗り込みました。なまじ腕に覚えがあるのも良し悪しです。かくして旅のお供と相成ったこの大ナマズに,このあとほとほと苦労させられることになりました。

まずこの図体。市街地の地下駐車場や観光地の路地裏など,こぶし一個ほどの間隔を見切って曲がることしばしば。そんなとき衝突防止センサーの警告音は鳴りっぱなしです。駐車場ではタテ2マス空いているところを探して,停めるときも出るときも何度も切り返し。とにかくヨーロッパの町は狭いので,路上の縦列駐車なんてほとんど運転技能テストです。

その上,このナマズのエンジンは,輸出されているV6 3500CCではなく,2000ccあるかないかのエコ仕様ディーゼルなのです。発信時には1速に入れないと即エンストです。6速トラックなんかの1速は平地では普通使いません。それがなまずのヤツは一時停止寸前まで減速して2速のまま出ようとすると,もう巨体を震わせてエンスト。クラッチの遊びに慣れていないこともありますが,坂道発進なんて2回に1回くらいしか成功しません。その度に道の真ん中や坂道の途中で,いったんキーをオフまで戻し,再びオンにしてグローランプが消えるのを待ってセルを回します。やれやれという他車ドライバーの視線が痛い…もう,自称天才ドライバーのプライドはズタボロです。

いちばんピンチだったのはバルセロナ中心街の地下駐車場から出るときでした。幅も高さもぎりぎりで,しかもカタツムリの殻のようにぐるぐる螺旋の坂道。その出口に信号があって,ほとんど空を向いたまま一時停止するわけです。坂道発進なんて繋がるわけがありません。何度か試みたのですが,ぶるぶると揺れながらエンストしてずり落ちるばかり。後続車のドライバーが真っ青になっています。センサーの警告音が鳴り響いてこれ以上は下がれません。ぎりぎりです。サイドブレーキを使うしかありませんが,サイドと言っても足でぎりぎりと踏むブレーキです。解除は手のレバー操作でガコンと一気に外れてしまうタイプ。こんなので坂道発進したことありません。

「ナマズぅー!上れー!!」

気合一発,勝負です。もう,ハンドル切りながら交差点の中央まで飛び出しましたよ。

ま,それでも走るほどに,だんだんこのナマズとも折り合って仲良くなり,旅も終わりごろには愛着もわいてくるから不思議です。


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