Apr.2012
「あー!あたし今,最高にしあわせ。こんな素敵な街のテラスでランチできるなんて。」
…ええ!?
アンドラの中心街で昼食をとっているときに,ドレミがそう言うのです。
こんなごみごみした観光地は早々に切り上げてフランス側に下っていこうと思っていたボクは,そのあまりに意外な感想に驚きました。ドレミがそう言うなら…
欲しいカメラが売ってなくてもここに用ができました。
この飲み物はクラーラと言います。
ビールを甘いレモンジュースで割ったもので,ドライバー御用達のようですがこれがなかなか爽やかでイケます。
イカのソテー,カモのポワレ,料理もきっぱりとした味付けで江戸っ子のボク好みです。食べ物が美味しいと,街の印象までが味わい深いものになってくるから不思議です。
「ニホンゴデ サンキュー ハ ナントイイマスカ?」
昼どき,忙しそうなウエイターがカタコト英語で一生懸命話しかけようとするのも好感が持てます。
「イカもクラーラもうまいなぁ。よーし,気分がいいから食べ終わったら古い街並みの保存地区でも探して歩こうか。」
「やったー♪」
支払いはカードですが,妻を幸せ気分にしてくれたサービスに感謝の気持ちをこめ,少し多めのチップをテーブルにおいて席を立ちました。道路に出るところで,別のテーブルに料理を運んでいたウエイターがボクたちの姿に気づき,さっき教えた覚えたての日本語で声をかけて寄越します。
「アリガ…トウ」
彼はおそらく二度とは来ないこの日本人観光客を喜ばせるために何度も聞きかえしながら「ありがとう」の発音をマスターしたのです。ボクらのアンドラに対する好印象はこれで決定的になりました。
街灯に下がっているペナントに古い街並みの絵が描かれていたので,市の駐車場の案内係らしきおばさんに一生懸命身振り手振りで聞くと道路の向かい側を指差します。
「なーんだ,あそこか。」
それは何度も通った街の中心,教会のある一角で,中に入ってみるとなるほど,古い石造りの家並みが残っています。倉敷とか川越とかの美観地区…そんな感じです。
構図を探っていると,坂道を駆け下ってきたドレミがファインダー越しに言います。
「ねえねえ,あそこのお店のパエリア安くて美味しそうだった。夜に来たいな。」
まだ,日は高いのですが,なんとなく二人の気分は一致しました。
「泊まるか…この街に。」