Aug.2015
27.ローマの遺跡
静かな夏の朝。
ゆうべ,買いこみすぎたので豪華な朝食となった。
そして性懲りもなくお弁当まで作ってしまった。
これでまたランチの楽しみは消えてしまったが,いくらなんでもこんなにパンやハムを捨てては行けない。
来たときよりキレイにするのがドレミ流。
ステンレスに顔が映りそう。
天気良好,出発!
トリーアという町がごく近くだった。ローマの遺跡が残っているらしい。
車窓より「自転車なめ葡萄畑 Photo by Doremi 」だそうだが,あまり葡萄畑は写ってない。まもなくトリーアに到着。
裏道に入ってパーキングスペースを探す。
ゲット!
こういうことにだんだんと慣れてきた頃,旅も終わりに近づく。慣れ切って苦労がなくなれば,同時に刺激もなくなる。刺激がなくなれば,それは日常となりはじめ,ボクたちは旅を終える。
ローマの遺跡らしき建造物が見えてきた。
かなり大物だが,ボクはどうも古代ヨーロッパ史となると,てんで知識がなく,どれ程の価値なのかわからない。
どこを見物したらいいのかもわからないので,例によってドレミをインフォメーションに走らせた。
ボクが腰をかばいながらそっとベンチに座る様子を,隣の老婦人が目ざとく見つけた。
「腰が痛いの?」
そうなんです。
「そう…痛いの」
かなり痛むのです。
互いにボディーランゲージなのでそれ以上内容は進まないが会話は途切れずに弾む。
「痛そうね」
痛いんです。
ほどなくドレミが戻ってきた。
それじゃ,行って来ます。
「行ってらっしゃい。」
ボクが老婦人に会釈して立ち上がったのを見て,妻もあわてて彼女にお辞儀した。
「遺跡,いっぱいあるよ。全部崩れた石ばっかりだけど。どれにする?」
歩きながら妻がパンフレットの小さな写真を見せて笑った。
あははは。じゃ,これ見に行こうか。
浴場跡とある。もっとも写真ではただの広っぱだが…。
途中にあったこの家。なんとプレートに書かれている英文を見たら,「マルクスの家」と読める。ガイドブックを見ると果たして本当にカールマルクスの生家だった。
青春を「空想から科学へ」に捧げたなんちゃってマルキストとしては,珍しく素になってこんな記念写真を所望する。
歩くほどに,もう遺跡なんてどうでもよいほど,ただの街並みが美しい。
8月でもマロニエの花が満開である。
浴場跡に到着。
やっぱりただの原っぱだった。
その割には結構な入場料を取る。だがそれでいい。欧米で個人旅行をするとき,チャンスがあれば,美術館や博物館など公立の施設には有料入場する。理由はトイレである。日本のようにキレイな公衆トイレはどこにもない。その代わり,チケットを買って入る施設には並ばずに使えるキレイで大きなトイレが必ずある。
尾籠な話で恐縮だが,最近のボクはシャワートイレがないとどうにもいけない。日本で宿を取るならシャワートイレの有無が最優先条件である。若いときはなんでもなかったのに,今は海外旅行で何が辛いって,シャワートイレのないことがいちばんキツい。
今回はこれを持って行ったら大正解の大活躍。おススメです。
こういう売店で買うコーラ。場合によってはカフェのテーブルで注文するより高い。わかりやすく言うと,日本に比べて,売店の値段は高く,カフェでの値段は安い。もちろん,カフェではチップも要るし,二人で一本というわけにはなかなかいかないので,一概に安いとは言えないが,割高な売店でコーラを買う人は少ない。
売店やコンビニが飲み物や軽食を安く販売すればカフェはつぶれてしまうだろう。販売機も町の中では見たことがない。推測だが欧州の人々は「便利さ」を捨てて,カフェという文化を守ろうとしているのではないだろうか。規制があるのか。あるいは,市民の意識なのか。
だから夜中に温かいコーヒーは買えないが,晴れた日には舗道や広場に白いクロスのかかったテーブルが並ぶ。
ピアノの運搬をしている若者が,立ち止まったドレミにウインクして
「ヤマハだよ。」
と言った。車椅子の人が連れていたゴールデンレトリバーがボクたちに尻尾を振ってなついてきた。少し里心が湧いてきた。
さあ,そろそろこの気持ちの良い街にも別れを告げよう。
モーゼル川に沿って北東に下る。