Aug.2015
28.ドイツの三角
モーゼル川の両岸もライン川と同じく急斜面に葡萄畑が広がっている。ブドウ栽培の北限と聞く。新潟や北海道のコメがそうであるように限界地域の農産物の品質は原産地より優れているものらしい。モーゼルやライン流域のワインの旨さが飛びぬけていることは今回,舌と鼻腔に刻みつけられた。
日本でドイツワインと言えば,甘ったるいデザートワインが主流で,こんなに旨いモーゼルワインを手に入れることはほとんど不可能である。
以前,福建省に行ったとき,一般民家でごちそうになるウーロン茶の旨さにのけぞるほど驚いたことがある。色はヒスイ色で香りは部屋から溢れるほどに馥郁と立った。日本でウーロン茶と呼ばれている茶色く苦いあの薬のような液体はたぶん古茶かそうでなければ中国では売れない粗悪品だろう。
今回の旅行でも,ブリュッセルで売っていた日本茶はパッケージも怪しい韓国製だったし,ノイスのスーパーにあった乾燥しいたけは粉に近かった。
要するに本当に美味しいものは地元,自国ですべて消費され,輸出には回らないということだ。ニューヨークがいかに豊かだとて,銚子の生醤油も福建省のウーロン茶も厚岸の牡蠣も牧之原の新茶も手に入らない。
東京ごときでモーゼルワインが手に入らないのは尤もな道理である。
コブレンツに到着した。「ドイツの三角」と呼ばれる場所に立ってみようと思った。三角を地形的に見れば,ドイツでもいちばんワインがうまそうな場所である。
さすが観光地らしくパーキングの時間設定が20分刻みになっていた。
道が普通に教会の下を通っている。
美しい広場。
モーゼル川沿いに出た。そして目的地も見えてきた。
じゃーん♪ドイツの三角!!
それは二つの大河の合流点である。画面向かって左からモーゼル川,右からライン川が合流し,奥に流れてゆく。そして穀倉地帯やルール工業地帯を潤し,やがてオランダへと続く。この旅の初めにボクらがたどった道だ。
「シュウー♪準備できたよー。」
ドイツの三角の重心辺りに座を占めてドレミが呼ぶ。
やっぱり?それ食べるよね。
昨夜の残り物で作ったお弁当である。
空いたペットボトルにコーヒーも詰めてきてある。
「いっただきまーす♪」
ぱくぱく
「ああ,おいしい」
「ごちそうさまー♪」
をい!待て。どこへ行く。
真剣な表情でトッピングを注文する外国人に逆らわないよう,一生懸命聞いている店員が笑えた。
ドレミスペシャルアイス出来!
コブレンツの美しさもトリーアやルクセンブルクに勝るとも劣らない。…が,ゼイタクにも,いささか古き良きヨーロッパの街並みに食傷気味ではある。
工事中の入路の複雑さに苦しみながら何とかアウトバーンに入り,ライン川沿いを南下した。行きに訪ねたマルクスブルク城が対岸にそびえていたので写真を撮ろうとパーキングスペースに車を停めた。
寸暇を惜しんでドレミが荷物整理をしている。もともと整理魔の彼女が積んだ荷物である。これ以上どこを整理するのかと思う。一日に二回は整理する。真夏の九州ではフェーン現象の炎天下で,春のアリゾナでは蠍のうろつくサボテン原で…やはり車の荷物を整理していた。
思う存分のんびりやっていいよ。ここまで来ればフランクフルトは近い。今夜の宿は決めていた。行きに対岸から眺めた大曲の町だ。