08/根釧台地

Nov, 2012

美幌峠を下って,南東に進むと景色は一変します.クマにお別れを言ったボクたち.余った日程は,なじみの場所を回って過ごすことにします.なじみと言ってもこんないい季節に来たことはありません.

小学校の社会科で,客土→パイロットファーム→サイロと暗記した根釧台地です.

映像ではただ美しいばかりの風景ですが,冬は雪に埋まり,夏は車から出られないほどアブが飛ぶ過酷な環境にあります.どうも湿原のアブは闖入者に容赦がありません.車を大きな動物と思うらしく,夏場に1分も停めていると,たちまち数十匹も集まってきてばんばんと車体に体当たりを始めます.写真を撮りに出たはいいけれと戻れなくなることもしばしばなのです.冬はそもそも除雪した雪が積もり,路肩に駐車するスペースがありません.

だから通りすがりの観光客が,こうしてのんびり車から降りられるのは,春と秋の気候のよいときだけでしょう.馬が見えたと言っては停まる,牛がいると言っては停まるものですから,なかなか進みません.

「ツル!」

別海町に入った頃だったかドレミが薄暗くなった丘にタンチョウを見つけました.今回はいつでも手に取れるよう7D+サンヨン+1.4x(高速連写用一眼レフに単焦点望遠レンズと倍率を上げるアダプターを装着したもの)を後部座席に電源オンの状態で置いてあります.そっと車から降りて,夕闇にも染まらぬ真っ白な羽にピンを合わせます.

ファインダーにタンチョウの優美な姿が現れました.感動で手が震えます.ハクチョウやサギとは気品が違う…はるか別格の存在感です.オスが黒いだんだら模様のある美しい羽を広げ,クァークァーとメスに警戒を促しています.興奮すると頭頂部が朱色に染まります.丹頂の名の由来です.カッカッとメスが応えます.

タンチョウの番いは本当に仲が良く,一生涯添い遂げます.よく知られているラブダンスも夫婦のペアで舞われます.メスがオスの近くまで寄ってきて,二羽は同時に舞い上がり,灰色の空に溶けて行きました.

「キレイだったね.」

と言いながら,ドレミが小さなクシャミをひとつしました.二人とも車を降りるときダウンジャケットを着るゆとりがなかったのです.日が沈んで急に冷えてきました.

11月に入ったばかりでも根釧台地の気温はもう東京の真冬並みです.抱き合うように車に戻って暖房を入れました.根室まではもうひとっ走り,…駅前の民宿を予約してあります.

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