10/春国岱

Nov, 2012

午前5時.携帯のアラームがTSUNAMIを奏でます.一人なら画面をタップしまくって音を消し,再び寝てしまうところですが,ドレミが布団から出る気配がします.彼女の意志の強さはボクの100倍です.仕方ないので布団から出て,枕元に用意しておいたダウンジャケットとカメラバッグを持ち,そっと廊下を歩きます.戸を開けると雨.風はなくシャワーのような雨がじっとりと降っています.

マジかよぉー.

夕べ寝る前,最後に確認したときも,Yahoo天気予報は午前0時からピーカン太陽マークが並んでいました.雨の予報ならば,5時起きはしません.

どうする?
せっかく起きたんだからともかく行ってみましょ.

ますます強くなった雨は,根室半島をすっぽり包んでいる楕円形の重たい雲から降って来ます.半島のつけ根,春国岱(しゅんくにたい)辺りで雨は上がりました.

夕べ民宿の老主人が教えてくれた秘密の撮影ポイントに行ってみると…いましたいました,ハクチョウです.でも肝心の紅い斜光がありません.東には例のわらじのような雨雲が居座って,朝日どころか墨を流したように真っ黒の空です.まだしも西の空は明るく,すぐ隣の厚岸まで行けば晴れているでしょう.

北海道で雨が降ってるのは根室だけなんじゃない?

まったく天気予報というのはあてになりません.こう寒々と暗い湖にハクチョウとカモではさすがに撮るものがありません.撤収しようと思っていたところに,ドレミが抜き足差し足近づいてきて,岩場の陰を指差しながら,

「ほら…」

と,耳元で囁きました.

ツルです.番いのタンチョウが羽を休めています.慎重に位置を変えてサンヨンを構えなおす頃には早くもオスが気配に気づいてメスを呼び寄せています.間もなくざくざくと羽ばたいたかと思うと,春国岱の洲に向けて飛び去っていきました.もちろん,一部始終はファインダーの中,7Dの高速連写がうなり,動画のような50カットほどを記録しました.

やったね.ラッキー♪

これでタンチョウも2セッション目,どちらも条件はあまりよくありませんがツル撮りのわくわく感は十分楽しめました.

この入り江なら朝早くから野鳥が集まってくると,宿の老主人が教えてくれたのです.前夜,夕食のとき,何気なく壁に貼ってある写真を見ていると,その中になんとシマフクロウのショットがありました.

「ワシが昔撮ったんだぁー.」

え!?ご主人が?休みの日ごとに山に入ること一年.ついに養老牛のホテルのオーナーに情報をもらって,撮影に成功したそうです.撮ったとき滑って崖から落ち,足をねんざしたという武勇談つき.

宿に戻ると,老主人が朝食の準備をしながら出迎えてくれました.

「朝,雨だからどうするかと思ってたら,行ったんだー.いいのが撮れたかね.」

朝日が差さなくて写真はダメでしたけど,おかげでハクチョウもタンチョウも見られました.

「タンチョウ?そりゃ珍しい.あすこでもこの時期はまだツルはめったに来ないんだあー.」

え!?ご主人,話が違う.ゆうべは「ハクチョウもツルもたぁくさん集まってる」っておっしゃってたじゃないすかー.

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