13/鳥よ鳥よ鳥たちよ(前編)

Nov, 2012

湯舟から見える橋を軽トラが渡って来たので,それをシオに野湯からあがりました.

養老牛ですから牛はたくさんいます.

車を停めるとドレミはすぐに牛の方へぴゅーっと走って行ってしまいます.アイフォンを構えて動画を撮っています.ハクチョウが夕日に飛び立つシーンも見事にとらえていたのですが,如何せん,ご覧のように画面をタテにして撮影しちゃってます(笑)アイフォン以外では再生できません.

そろそろ行こうかー.

「はーい.」

帰りの空港はタンチョウ釧路空港です.湿原でも,たいてい一羽,二羽くらいはタンチョウに逢えるものなのですが,どうも今日に限ってみかけません.

鶴居村に入る手前で,しげみから不自然にキタキツネが飛び出してきました.何か悪いことをしていて見咎められた子どものような表情をしています.

「お,おいら,何にもしてないよ.」

怪しい!!(笑)車を停めて,しげみの向こうに広がる畑を見てみると…

やっぱりいました.番いのツルです.

それが畑に下りて近づいて行っても,

「フン,狐じゃなくて人間か.」

ちらりと視線を投げるだけで逃げません.別海や根室あたりにいるときと違って,鶴居のツルは自分が特別天然記念物であることを十分に理解しているフシがあります.なおも近づくと,念のためかメスを呼び寄せますが,やはり悠然と落穂を拾っています.

「どうするのー?サンクチュアリに行かないのー?」

ドレミが道路から聞いてます.

妻よ.オレはこの番いに賭ける!!そう,勝負だ!ここであの二羽が夕空に飛び立つことを信じて待つのだ!

「あ,そう.」

ドレミはそっけなく言い,ぶるぶるっと寒そうに身震いして,さっさと車に戻ってしまいました.女にはロマンというものを解する心がありません.サンクチュアリや雪裡川に行っても,冬場でなければツルは一羽もいないことがよくあります.男はこの番いとの偶然のめぐり逢いに賭けるのです.ロマンです.

底冷えがしてきました.相変わらずタンチョウのカップルは睦まじく落穂やら土の中の虫やらをつついています.これ以上は近づけません.突進すればツルは飛ぶでしょうが,めいっぱい望遠モードの7Dには近すぎます.

ぎょげっっ!!

奇声を発しながら,畑でカエル飛びしてみました.着地と同時に7Dを構えます.タンチョウは怪訝(けげん)そうにこちらを見ましたが動じているようすはありません.

ぎょぎょぎょーげええー!!!

さらに大声で再びジャンプ&構え.もはや,タンチョウはこちらを見もしません.

くくくく,悔しいーっっ!!

もう一度飛び上がろうとして,思いとどまりました.いくら,誰も見てる人がいないとはいえ,これ以上カエル飛びを繰り返してはボクのアイデンテティが崩壊しかねません.

覚えてろよ!!

捨て台詞を残して畑をあとにします.男のロマンを追求すると,えてしてこういう結果が待っているものです.

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