Jan, 2004

戦場ヶ原に着くと,あいにく西の空には厚い雲がかかり,展望台からも一面の雪原が鈍く光るばかり.

「残念だったねー♪」

とあっさりカメラをしまう母とちがって,めったにこんな時間に撮影できないボクはあきらめきれない.駐車場の案内板とカーナビの地図をくびっぴきで,もしもあそこのわずかな切れ間から夕日が射したら,どの位置がいいか,思い切って少し北の光徳牧場まで走るか…などと考える.

「うーん,やはり赤沼茶屋まで戻って…ありゃ?おふくろ?おふくろー!!」

振り返ると,いつのまにか母は閉店間際のお土産屋さんの中.こんな雪の夕暮れにたった一人の客は,3人の店員さんの熱い視線を浴びていて,とても何も買わずに連れ出すのは難しい雰囲気.

「これ,これ!これにしよう!乾燥ゆば♪オレもふたつ買うよ.今度の休みにさっきのお店より美味しい湯葉そば作ってあげるから.」

店に飛びこんだボクは目の前にあった袋入りのチープな乾燥ゆばを6つ持たせ,なおもとんがらし餅の試食ケースを開けようとする母の手を引いて表に出た.

と!おわー!!雲の下から姿を見せた夕日が今,まさに雪原を黄金色に染めているではないか!

「オフクロの食いしん坊のおかげでなんたること!」
「ま,まだ間に合うよ.」

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