05/モヨロのビーナス

Aug, 2007

モヨロ貝塚館の受付は研究員の事務室続きで係の人もいかにも研究が好きそうな感じでした。話しかけやすい雰囲気なので

「モヨロのビーナスを見たいのですがどこにありますか?」

と,聞いてみました。

「ビーナスですか?ああ。」

「市立博物館のアレだろ。」

奥からも声がしました。どうやら「ビーナス」というのは学術的ではない通り名のようです。考古学ファンではないボクが,オホーツク文化に興味を持った動機は写真で見たその半身像の峻烈な印象からでした。

網走市郷土博物館は貝塚のある港とは中心街をはさんでちょうど反対側の丘の上にあります。お盆休みが近いこともあるのでしょうが中心街には活気がありません。静かな駅前通りを通過して,学校や文化施設の集まるその丘に登って行きました。

この博物館は米村氏が自宅理髪店を一般に開放して,公開していた出土品を整理して展示したのが始まりです。

モヨロのビーナスです。

握りこぶしくらいの思ったより小さなものでしたが,この半身像を見ることは,ボクにとってこの旅の目的でした,たおやかな曲線から女性美が匂い立つようです。胸や指のデフォルメにも作家の意思が感じられます,これはあきらかに美術作品です。しかも作者の持つ女性美のイメージは現代の東洋人が持つ美意識に通じる普遍性があります。

後方に写っているクマの彫刻や葉っぱをモチーフにした右側の皿も作者の鋭い感性を感じる工芸品です。精神的な豊かさのあふれる文化から生まれた作品であることは疑いないところでしょう。オホーツク文化の成熟度は現代を凌いでいるかもしれません。

 

オホーツク土器独特の模様


何とか写真を撮らせてもらおうと,コンパクトマクロにPLフィルターを装着してきたのですが如何せん光量が足りません。博物館でフラッシュを使うことはできないし,ガラスケースの中なのでそもそもストロボをたいても反射してしまうでしょう。さすがにレフ板を持ち込むことははばかれたので置いてあったパンフレットを裏返して持たせます。

「もうちょい上向き,止めて!ふらふらしない!」

「ふえええ」

レフ係がふらふらとしてうまくいきません。実は博物館の1階には所狭しと動物の剥製が並んでいて,ドレミはそこを通っている間に気分が悪くなってしまったのです。これだけ映像技術が発達している現代,博物館にお決まりの剥製は必要なのでしょうか。蒼い顔をしたレフ係を叱責しながら撮影します。

外に出て車に待たせておいたタローと一緒に丘の草地を走るとドレミもすぐに元気になりました。

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