06/駒ケ岳

Aug, 2009

函館から室蘭まで噴火湾沿いに走る国道5号線を,かつてボクたちはカニ街道と呼んでいた。道の両側に土産屋やドライブインが建ち並び,みな「かに」と書いた大看板を出していたものだ。その賑わいが北から順に消えてゆく。道南自動車道の開通区間が南下してくるからだ。

高速道路は点と点を結んでいく。だから夏の観光シーズンともなると,ガイドブックに載っている函館や大沼公園,洞爺湖には観光客がひしめくように集まるが,すぐ隣の森や長万部の町はとても静かだ。ボクの訪ねる北海道もそんな点と点の間にある。

森町の道の駅に立ち寄ると隣接する公園がずっと奥深く,反対側が市街地にまで達していた。犬を連れていなければ旅行者はなかなかこんな場所まで散策したりはしないだろう。

森の向こう,傾き始めた日に照らされて北海道駒ヶ岳が美しい。広場を囲む草地の斜面に素晴らしい木陰を見つけたので,お土産コーナーをうろついているであろうドレミに電話して呼びよせた。

「ここで,一枚(写生を)やってってもいいかな。」
「いいけど,…どうかしら…。」

ドレミは待つのが苦で「どうかしら」と言っているわけではない。やんわりとこの場所の風景が絵には難しいと意見しているのだ。それでも結局,車に戻ってボクは画材と虫除けスプレーを,ドレミはお菓子とシートと文庫本を持ってきた。

それほどこの木陰は居心地よかった。山と森のコントラストが強すぎるし前景によいものがない。ドレミの言う通り,確かに絵になる風景ではないが,最初だからかえってこんな方がいい。

なあに,広場のベンチを杭にでも変えれば,ちょっとした森の小道になるだろう。

絵が仕上がる頃,ラブを連れた母娘が町の方角から散歩にきた。

タローの尻尾を抱きしめてはしゃぐ女の子がかわいいので,つい5Dで連写をかけてしまったものだから,またもや写真を送る約束になってしまった。名古屋から家族で森町に移住したそうだ。

話がはずんでタローと女の子の追いかけっこも果てしない。ボクたちの旅はなかなか前に進まない。

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